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現金、小切手
相続開始直前に銀行預金から引き出した現金について、相続開始時における手持現金と認定した事例
裁決事例集 No.18 - 97頁
被相続人が相続開始日直前4日間に銀行の普通預金口座から引き出した現金(40,000,000円)については、被相続人の死亡直前の状況により、資産の取得、債務の返済、その他費消等のために支出された事実が認められないことから、当該現金は、相続開始時の手持現金と認めるのが相当である。
昭和54年6月21日裁決
被相続人が相続開始後認知された子Mに渡した小切手(額面45,000千円)は、預け金ではなく、Mに贈与されたものであり、相続財産に属さないと認定した事例
原処分庁は、被相続人が相続開始後判決により認知された子であるMに渡した本件小切手は、自ら本件宅地を取得する意思をもって、その購入のためMに預けたものであるとし、本件小切手の返還請求権は相続財産に属するとして原処分をした。
しかし、被相続人が本件宅地を取得するために仲介業者に渡した買付証明書は、発行後7日目に返却を受けており、それから2か月後に交付された本件小切手は、本件宅地を取得するためのものとは認められず、一方、本件小切手を受け取ったMは、小切手を自己の預金口座に入金した後、40,000千円を4行へ送金し、それぞれ10,000千円の自己名義の定期預金を設定していること及び被相続人から本件小切手をMの妻に手渡すことを指示された者は、被相続人からMの不動産の取得資金として交付するように言いつけられたと答述していることなどから、本件小切手はMに贈与されたものと認められるので、相続財産から除外するのが相当である。
平成6年6月30日裁決
相続人又はその家族名義の預金、株式及び割引債について、生前贈与された資金の運用により取得されたものではなく、被相続人が請求人に指示して管理運用していたもので、その一部を除き相続財産であると認定した事例
請求人は、相続人又はその家族の名義による株式、定額郵便貯金及び債権について、被相続人から贈与をうけた現金を資金運用して取得したものであり、請求人固有の財産であって相続財産ではないと主張する。
しかしながら、[1]相続人が請求人に対し、当該現金を贈与したと認定できる証拠がないこと、[2]毎年計画的に贈与されている現金については、贈与税の申告がされているが、請求人の主張する贈与については申告がされていないこと、[3]被相続人が請求人に対し資金の運用を指示し、請求人がその指示により管理運用していたことが認められることから、その結果形成された上記の株式等の財産は被相続人に帰属すると認めるのが相当である。
ところで、上記の財産の形成中に、明らかに被相続人以外の財産も組み込まれたことが認められるから、この組み込まれた被相続人以外の部分の財産に係る評価額を控除して相続財産としての評価をするのが相当であるので、原処分の一部は取り消すべきである。
平成6年10月4日裁決
被相続人の相続開始数日前に相続人によって引き出された多額の金員は、被相続人によって費消等された事実はないことから相続財産であると認定した事例
《ポイント》
本事例は、相続開始数日前に相続人によって引き出された50,000,000円もの金員の使途について、相続人は不自然、あいまいな申述をするのみで、不明のままであったが、被相続人が費消等した事実は認められなかったために、被相続人の相続財産であると認定したものである。
《要旨》
請求人らは、相続開始の数日前に被相続人名義の預金から相続人が出金した50,000,000円(本件金員)について、出金された当日に被相続人に引き渡され、相続開始日までに被相続人によって費消されて存在していなかったから、本件相続に係る相続財産ではない旨主張する。
しかしながら、被相続人が、50,000,000円という高額な金員を家族に知られないまま費消することは通常であれば考えられないことに加え、本件金員をギャンブル等の浪費によってすべて費消するには相続開始前の数日間では短すぎるのであって、被相続人の消費傾向に照らしても、本件金員がすべて費消されたとは考え難く、また、被相続人自身、数日後に死亡するとは考えておらず、多額の費用が必要な手術の準備をしていた時に、本件金員を引き出す直前の預貯金残高の8割を超え、総所得金額の2倍以上に相当する50,000,000円もの金員が、そのような短期間で軽々に費消されたとも考え難い。さらに、原処分庁及び当審判所の調査の結果によっても、本件金員が、相続開始日までに、他の預金等に入金された事実、債務の返済や貸付金に充てられた事実、資産の取得又は役務の提供の対価に充てられた事実、その他何らかの費用に充てられた事実はなく、家族以外の第三者に渡されたような事実もない。以上のとおり、通常想定し得る金員の流出先についてみても、本件金員が費消等された事実はなかったのであるから、本件金員は被相続人によって費消等されなかったと認めることができ、ほかにこれを覆すに足りる証拠はない。したがって、本件金員は、本件相続の開始時点までに被相続人の支配が及ぶ範囲の財産から流出しておらず、本件相続に係る相続財産であると認められる。
《参考判決・裁決》
昭和54年6月21日裁決(裁決事例集No.18・97頁)
相続税の申告書に計上された預貯金口座から出金された現金並びに配偶者名義及び次男名義の預貯金は、いずれも被相続人に帰属する相続財産とは認められないとした事例(平成30年2月相続開始に係る相続税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分・全部取消し)
《ポイント》
本事例は、相続税の申告書に計上された預貯金の口座から出金された現金並びに配偶者名義及び次男名義の預貯金について、いずれも被相続人の収入を原資とするものと断定することができないことなどを理由として、被相続人に帰属する相続財産とは認められないとしたものである。
《要旨》
原処分庁は、相続税の申告書(本件申告書)に計上されていない現金(本件現金)、被相続人の配偶者(本件配偶者)名義及び次男名義の預貯金(本件預貯金)は、出捐者や被相続人及び本件配偶者の収入比率などからその帰属を判断すると、いずれも被相続人に帰属する財産である旨主張する。
しかしながら、本件現金の出金元である本件申告書に計上された預貯金口座で管理運用されていた預貯金の原資が特定できないことや、本件配偶者も収入を得ていたと認められることなどからすると、本件現金には被相続人及び本件配偶者の収入が混在している可能性を否定できない中、審判所においても、被相続人及び本件配偶者の収入比率等により本件現金を合理的にあん分することもできず、また、本件預貯金についても、本件現金と同様、それらの原資を特定することができず、本件配偶者が管理運用しており、被相続人の収入が混在している可能性を否定できない中、被相続人及び本件配偶者の収入比率等により合理的にあん分することができないのであるから、本件申告書に計上された預貯金及び現金の額を超えて、本件現金、本件預貯金が被相続人に帰属する相続財産として存在していたと断定することはできない。
《参考判決・裁決》
東京高裁平成21年4月16日判決(税資259号順号11182)
平成31年4月19日裁決(裁決事例集No.115)