財産の評価

出資の評価

  1. 評価の原則
  2. 土地及び土地の上に存する権利
  3. 家屋及び庭園設備
  4. 動産
  5. 取引相場のない株式
  6. 出資の評価(8件)
  7. 預貯金
  8. 貸付金債権等
  9. 預託金制のゴルフ会員権
  10. 施設建築物の一部の給付を受ける権利
  11. 構築物

協業組合の出資の評価については、評価基本通達179を適用して評価することが相当とした事例

裁決事例集 No.63 - 554頁

 協業組合の出資の評価方式について、請求人は、払込済出資価額に相当する金額又は配当還元方式により評価すべきである旨主張し、原処分庁は、財産評価基本通達196の定めを適用して純資産価額を基として評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、協業組合の活動実態は、企業組合など他の営利事業を営む中小企業等協同組合と異なり、むしろ合名会社に近いと認められることから、税法の解釈適用にも要請される租税負担公平の原則に照らし、合名・合資会社の出資に適用される収益性が法人の規模に応じて反映される併用方式(財産評価基本通達179)によって評価することが相当である。
 ただし、協業組合においては、議決権等の配分が各組合員相互間の平等を原則とされていることから、零細株主等に適用される特例的な評価方式である配当還元方式及び財産評価基本通達185に定める20%評価減の特例を採用することはできない。

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財産評価基本通達196に定める評価方法は合理性を有すると認められるので、企業組合の出資の価額は同通達に定める評価方法に基づき評価するのが相当であるとした事例

裁決事例集 No.64 - 445頁

 請求人らは、L企業組合の脱退時の払戻金額は払込済出資金額50円であり、また、組合加入時の払込金額も1口当たり50円であるから、この金額が相続税法第22条に規定する時価、すなわち客観的交換価値に相当するので、L企業組合の出資の価額は、1口当たり50円で評価すべきである旨主張する。
 一般に、市場を通じて不特定多数の当事者間における自由な取引が形成されている場合には、これを時価とするのが相当であるが、本件出資のように取引相場のない資産にあっては、市場価格が形成されていないから、その時価を把握することは困難である。したがって、合理的と考えられる評価方法によってその時価を算定するほかなく、その評価方法が合理性を有する限り、それによって得られた評価額をもって「時価」を推定することに妨げはないというべきであると解されているところ、財産評価基本通達に定められた評価方法が合理的である限り、その評価方法によって評価した財産の価額は、特段の事情のない限り、相続税課税における財産の時価と認めるのが相当である。
 企業組合の出資の価額は、財産評価基本通達196の定めにより純資産価額に基づいて評価することとされており、この評価方法は企業組合の実態に照らして合理性を有するものと認められる。
 そして、請求人らは、当該出資の時価を立証するものとして、L企業組合定款第13条《脱退者の持分の払戻し》の定めをいうにすぎず、これによってはその立証があったと認めるには足りない(評価通達に定める評価方法によりえない特別な事情はない)から、財産評価基本通達196の定めに基づき評価するのが相当である。

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医療法人の出資持分の評価は財産評価基本通達に定める方法により算定した価額が相当であるとした事例

裁決事例集 No.65 - 743頁

 請求人らは、医療法人は非営利法人であり株式会社とは性格を異にすること及び相続税法9条は同族会社のみに適用すべきと解されることから本件増資に贈与税を課税することは誤っており、また、医療法人の場合、増資持分の権利は、増資後の期間に及ぶ(東京高裁平7.6.14判決)のであるから、増資により取得した持分の価額は出資額と同額となり経済的利益は生じないので、同条は適用されない旨主張する。
 しかしながら、本件医療法人は、持分の定めのある社団医療法人であり、同法人の新定款全体の定めや定款の変更の可能性の有無などを総合的に判断すると、本件増資により取得した財産権たる持分の価額と本件増資に係る出資額との差額を本件増資により取得したものと認められ、相続税法9条の規定は医療法人を除く旨定めたものでもないから、同条の規定の適用があるものと解される。また、請求人の主張する判決は、事件の個別事情を考慮した判決であって、医療法の解釈として請求人の主張するような趣旨を判示したものとは認められない。

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医療法人の定款を変更し、退社時の出資の払戻額及び解散時の出資の払戻額を払込出資額に限る旨定めたとしても、出資持分の価額は、払込出資額により評価するのではなく、財産評価基本通達194−2の定めに基づき評価するのが相当であるとした事例

裁決事例集 No.72 - 589頁

 請求人らは、医療法人E会は定款を変更し、出資額限度法人となったことから、定款の変更及び合併に伴う通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人への移行(後戻り)は本件通知(平成16年8月13日付医政発第0813001号、「いわゆる『出資額限度法人』について」をいう。)により事実上禁止されており、県知事の認可を受けることはできないから、医療法人の出資の価額は、払込出資額により評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件通知には、出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することは適当でない旨の記載はあるが、禁止する旨の記載はなく、かえって、本件通知の基となった本件照会(厚生労働省医政局長から国税庁課税部長に対する平成16年6月8日付医政発第608002号「持分の定めのある医療法人が出資額限度法人に移行した場合等の課税関係について(照会)」をいう。)によれば、出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することができることを当然の前提としていると認められ、また、医療法その他関係法令上、これを禁止する規定がないことからすれば、定款変更により出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することが絶対的な拘束力を有して禁止されるものとは認めることができず、医療法第50条でその手続きが法令又は定款に違反しない限り定款の変更等も可能であると認められるから、出資額限度法人が通常の出資持分の定めのある社団たる医療法人へ移行(後戻り)することができないことを前提とする、医療法人の出資の価額を払込出資額で評価すべきとの請求人らの主張には理由がなく、また、医療法人の出資の価額を財産評価基本通達194−2に定める方法によって評価することが著しく不適当と認められる特段の事情も認められないから、原処分は適法である。

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評価対象会社の出資を純資産価額方式で評価するに当たり、当該会社が有する国外の土地に係る使用権を貸借対照表価額に基づき評価した事例

裁決事例集 No.76 - 368頁

 本件取引相場のない株式(出資)の評価上、その発行法人(以下「評価会社」という。)が保有する本件土地使用権は、P国の土地○○法及び都市○○法の規定に基づき、評価会社の権益を保護するため、登記されたものと認められる。そして、土地○○法第○条は、法に従って登記された土地使用権は、法律の保護を受ける侵害できない権利である旨規定し、また、都市○○法第○条は、土地使用者が土地使用権の上に存する不動産を譲渡し、抵当に供する場合は、当該土地使用権を同時に譲渡し、又は抵当に供する旨規定していることからすれば、本件土地使用権は、譲渡及び抵当権の設定が可能な財産であると認められ、また、評価会社により工業用地として現に有効に利用されている。したがって、本件土地使用権は財産価値があると認められる。
 そして、財産評価基本通達は土地の上に存する権利の評価方法について、いずれもその権利が設定されている土地の自用地の価額を基に評価する旨定めているものの、本件土地使用権に係る自用地の価額を明らかにすることができないから、これによることができず、さらに、土地使用権に係る売買実例価額、精通者意見価格等についても明らかにすることができないので、当該土地使用権の取得価額を基にP国における土地使用権の価格動向に基づき時点修正をして求めた価額により評価することとなるが、P国における土地使用権の価格動向については把握することができないことから、本件土地使用権の相続税評価額は、その取得時における時価を表していると認められる取得価額を基に時点修正して求めた価額、すなわち使用期間に応じて減価させた金額によることが相当である。評価会社の本件直前期末の貸借対照表に記載された土地使用権の金額は、その取得価額を基に使用期間に応ずる減価を反映したものとなっており、加えて、本件直前期末から本件受贈日までの間は6か月に満たないことから、評価会社の本件直前期末の貸借対照表に記載された土地使用権の金額を本件受贈日における相続税評価額とみても、これを不合理とする特段の事情は認められない。

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出資持分の定めのない医療法人への組織変更の準備中に相続が開始した場合の医療法人の出資について、財産評価基本通達の定めにより評価することが相当であるとした事例

裁決事例集 No.77 - 413頁

 医療法人X会がP県知事に対して定款変更に係る認可申請をしたのは、本件相続開始日より後の平成○年○月○日であり、同知事の定款変更に係る認可の通知は同月○日付で行われており、X会は、本件相続開始日においては、同知事による本件定款変更の認可は受けていないことから、X会は出資持分の定めのある社団医療法人であり、X会の出資者は、X会の財産的価値をその持分に応じて有していたこと、さらに、本件相続の開始日前におけるX会の出資者は、被相続人、N及びVの3名であり、被相続人が有していた出資持分(以下「本件出資持分」という。)のすべてをNが遺贈により取得したこと、並びに本件相続の開始直前及び開始直後におけるX会の社員全員が被相続人、N(被相続人の配偶者)、V(被相続人の次男)及びその親族であったことに照らせば、本件相続の開始した時において、社員総会において本件定款変更を行わない旨の決議をし、これまでどおり出資持分の定めのある医療法人として存在し続けること、また、N、U(被相続人の長男)、V及びY(被相続人の弟、X会理事長)は、X会の財産的価値を把握していたことからすると、出資者が社員総会の承認を受けてX会の出資持分を当該算出した額を基準として第三者に譲渡することも可能であったと考えられるし、X会を解散して、残余財産の分配を受けることも可能であったことなどからすれば、本件出資持分は、特別の放棄の意思決定及び特別の法定手続の拘束下にあるなどと請求人が主張する事情は、X会、Y、被相続人、N及びVが、将来にわたって存続し得るよう妥協を図ることを目的として、実質的にX会の分割を図りたいとのNその他関係者の主観的事情であって、客観的交換価値である相続税法第22条に規定する時価を算定する場合に、このような主観的事情を考慮することは相当ではない。
 したがって、請求人の主張する事情は、本件出資持分の評価に当たり、財産評価基本通達194−2の定めによらないことが正当と認められるような特別な事情には該当しない。
 本件においては、平成○年○月○日に開催されたX会の臨時社員総会において本件定款変更が決議され、その際に、出資者の一人であった被相続人も社員として本件定款変更の決議に加わり、被相続人は、本件定款変更によって自己の出資持分が消滅することを認識した上で当該決議に賛成したと認められるが、この意思表示により、被相続人に出資持分放棄の義務が生じたということはできず、その後、平成○年○月○日のP県知事に対する本件定款変更に係る認可申請書の提出を経て、同月○日付のP県知事の本件定款変更の認可があったことにより、Nが遺贈により取得した被相続人のX会に対する出資持分が消滅したのである。したがって、本件相続開始日において、「出資持分の放棄義務」という被相続人の債務は存在しないから、Nの相続税の課税価格の計算上、本件出資持分の価額と同額である○○○○円を本件出資持分の放棄義務として債務控除額に計上して控除することはできない。

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出資額限度法人の出資持分の価額は、財産評価基本通達による評価額によるべきであるとした事例

平成23年3月16日裁決

《ポイント》
 この事例は、最高裁判所平成22年7月16日第二小法廷判決(平成20年(行ヒ)第241号)の考え方を基に判断を行った最初の裁決事例である。

《要旨》
 請求人らは、出資額限度法人(定款において退社・解散時に払込出資額を限度として払戻し・分配等を行うことを決めた社団医療法人)であるT会(本件法人)に対する出資持分(本件出資持分)の価額について、本件法人の定款(本件定款)には、払込出資額を超えて払戻しをしないこと、本件法人が解散した場合の残余財産は払込出資額を限度とすることが定められており、請求人らはいずれの場合においても、払込出資額を超えて払戻し等を受けることはできないから、相続税法第22条《評価の原則》の時価、すなわち、本件出資持分の客観的交換価値は、本件払込出資額を上回るものではない旨主張する。
 しかしながら、本件法人は出資額限度法人であるが、出資持分の定めのある社団医療法人であり、また、本件定款には払戻し等に係る定めの変更を禁止する条項が存するが、法令において、定款の再度変更を禁止する定めがない中では、このような条項があるからといって、法的に当該変更が不可能になるものではない。そうすると、本件出資持分の権利の内容の範囲については、本件相続時における定款の定めに基づく出資の権利内容がその後変動しないと客観的に認めるだけの事情はないといわざるを得ず、ほかに財産評価基本通達194−2《医療法人の出資の評価》の定める方法で本件定款の下における本件法人の出資を適切に評価することができない特別の事情も認められないから、本件出資持分について、同通達の定める方法により評価した原処分は相当である。

《参照条文等》
 相続税法第22条
 財産評価基本通達194−2

《参考判決・裁決》
 最高裁平成22年7月16日第二小法廷判決(判タ1335号57頁)
 平成18年11月8日裁決(裁決事例集No.72・589頁)

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医療法人の出資持分の評価に際し、相続開始時点において既に退社した社員が出資金払戻請求権を行使していない場合であっても、当該出資持分については、当該退社社員が退社する直前の出資持分の総口数から当該退社社員が有していた出資持分の口数を控除した後の口数を総口数として、財産評価基本通達194−2の定めにより評価するものとした事例

平成23年6月28日裁決

《要旨》
 原処分庁は、医療法人K会の出資持分(本件出資持分)について、本件相続開始時点で本件被相続人名義でないものも存するが、実質的に支配・管理していたのは本件被相続人であるから、同人に帰属するのは910口である旨主張する。
 しかしながら、財産の帰属については、当該財産の名義のほか、運用状況・取得原資の出えん者と名義人及び管理運用する者との関係・贈与契約の有無等の諸要素を総合勘案して当該財産の実質的な帰属を判定すべきであり、私法上の行為によって当該財産の帰属が変更された場合、当該財産を取得した者は当該財産を自由に利用・処分することができるのであるから、総合勘案に当たっては、当該私法上の行為による担税力の変動を前提に課税関係を判定すべきであり、当事者の実体の伴わない意図で法律行為を行うなど、私法上も当該財産の帰属が変動しないと解すべき特段の事情のない限り、これを否定することは適切ではない。本件においては、K会の設立当初は、本件出資持分910口の全部が本件被相続人に帰属していたと認められるものの、その後、本件被相続人と各相続人との間で本件出資持分合計845口を贈与する旨の契約書が作成されており、当該契約書は真正に作成されたものと認められ、本件被相続人及び当該各相続人との間で実質的にも贈与契約に係る意思が存在していたと認められることから、当該贈与契約は有効に成立しているものと認められる上、当該贈与について社員総会の承認も得ていることからすると、本件出資持分845口については、当該各相続人に移転したと認めるのが相当である。これらのことからすると、本件相続開始時において本件被相続人に帰属する本件出資持分の口数は、65口(910口−845口)となる。
 なお、K会の定款の定めによれば、出資持分を有する社員は、退社により社員たる地位を喪失し、K会に対する出資持分を失うとともに、払込済出資額を限度とする出資金払戻請求権を取得することになるところ、当該各相続人は、いずれの者も本件相続開始前に退社していることからすると、当該各相続人は、本件相続開始時において、K会に対する出資持分を失っていることとなるから、本件相続開始時におけるK会の出資持分の総数は、本件被相続人が保有する65口となる。したがって、本件出資持分の評価は、本件被相続人が保有する65口を総口数として、財産評価基本通達194−2《医療法人の出資の評価》の定めにより評価することとなる。

《参照条文等》
 財産評価基本通達194−2

《参考判決・裁決》
 最高裁平成22年7月16日第二小法廷判決(裁判所Web)
 最高裁平成22年4月8日第一小法廷判決(民集64巻3号609頁)

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