差押え

無益な差押え

  1. 財産差押えの通則
    1. 破産宣告と財産の差押えとの関係
    2. 差押えの効力
    3. 差押財産の帰属
    4. 超過差押え
    5. 無益な差押え(3件)
    6. その他
  2. 各種財産に対する差押え

バブル崩壊による担保不足を請求人の責任として差押処分等をすることは不合理である等の請求人の主張が排斥された事例

裁決事例集 No.58 - 339頁

 請求人は、[1]原処分庁が延納担保物件を適当と認めて延納許可をしたにもかかわらず、バブル崩壊による担保不足を請求人の責任として差押処分等をすることは不合理である、[2]請求人の財産について早期に滞納処分ができたにもかかわらず、請求人の指定した土地以外の土地を参加差押処分したことは不当である、[3]公売された場合に配当が見込めない土地に行った参加差押処分は無益な処分であり不当である、[4]公売物件の見積価額を算定する場合は十分審査して、公売予定価額を決定すべきである旨主張する。
 しかしながら、[1]担保財産について延納税額を担保できなくなる事態の生じることは法律上予定されているものであって、担保評価額の下落の原因に関係なく、担保不足分を徴収するため他の財産の差押処分等を執行したとしても、その処分に違法又は不当な点は認められないこと、[2]請求人の所有する財産のうち、いかなる財産を差し押さえるか又は参加差押えをするかは、国税徴収法等に定めた手続によるほかは、徴収職員の合理的な裁量に委ねられており、請求人の要望に沿って相当の換価努力をした後に当該処分を行っていることから、その時期について特に不当な点は存しないこと、[3]本件参加差押処分は、法定の要件を充たす処分であって、交付要求としての効力を有するから、無益な処分ということはできないこと、[4]見積価額は、売却予定価額ではなく、これを下回る価額での売却は許されないという最低公売価額の性質を有する法定売却条件であって、適正な売却価額を担保するものにすぎず、かつ、公売物件という特殊性を考慮した減価がされるべきものであり、本件公売物件の見積価額は、客観的な時価に比して著しく低簾とは認められないことから、原処分庁が差押物件の評価額では滞納国税等を十分に担保していないとして、差押処分及び参加差押処分を執行したことに違法な点は認められず、差押物件の評価額が低廉であるとの理由もない。

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不動産の差押処分が無益な差押えに当たるとした事例

裁決事例集 No.76 - 583頁

 公売の特殊性に伴う減価割合を仮に10%として差押処分時における本件テナントビルの処分予定価額を算出すると、その価額は○○○○円となる。一方、本件テナントビルについては本件滞納国税に優先する第1抵当権と第2抵当権が設定されているので、本件テナントビルの差押処分が国税徴収法第48条第2項にいう無益な差押えに当たるか否かを判断するためには、差押処分時におけるこれらの被担保債権の額と上記処分予定価額を比較する必要があるが、差押処分時における本件第1抵当権の被担保債権の額は○○○○円であり、本件第2抵当権の被担保債権の額は○○○○円である。そうすると、本件第1抵当権の被担保債権の額が弁済などによって減少する可能性があることを考慮しても、本件テナントビルの処分予定価額が本件第1抵当権の被担保債権の額を超える見込みのないことが一見して明らかであるといわざるを得ない。

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滞納処分において相続財産管理人の報酬が国税債権に優先することが自明の理であるとはいえず、また、差押財産の選択等に関する判断は不合理とは認められないとした事例(債権の差押処分・棄却)

令和6年10月4日裁決

《ポイント》
 本事例は、差押処分時において被差押債権について国税に優先する債権は確認できなかったことから、無益な差押えに該当せず、また、差押えに至る経緯によれば、差押財産の選択等に関する判断は法や制度の趣旨及び目的に照らして不合理とは認められないことから、差押えは不当な処分であるとはいえないとしたものである。

《要旨》
 請求人は、1民法第885条《相続財産に関する費用》本文の「費用」には相続財産管理人(管理人)の報酬や立替経費が含まれ、管理人が同法第929条《公告期間満了後の弁済》ただし書の「優先権を有する債権者」に該当すること、2相続財産の清算手続は破産手続に類似し、国税徴収法(徴収法)第9条《強制換価手続の費用の優先》の準用又は類推適用により、管理人の報酬債権が国税に優先するとした上で、管理人の予定報酬額は、管理人名義預金口座(本件預金口座)の残高を上回ることから、本件預金口座の残高の一部の払戻請求権を差し押さえた(本件差押処分)ことは、無益な差押えに当たり徴収法第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》第2項に反する旨主張する。
 しかしながら、1相続財産法人に対する債権者は、相続財産法人について管理人による清算が行われている場合であっても、強制執行や滞納処分を行うことが妨げられないところ 、滞納処分においては、徴収法第8条《国税優先の原則》により、徴収法第2章《国税と他の債権との調整》に別段の定めがある場合を除き国税は他の債権に優先すると規定されているのであるから、上記民法の規定は管理人の報酬が国税に優先することの根拠となるものではなく、2破産手続では国税債権者は滞納処分の執行が制限される一方で破産管財人に交付要求手続を行うことで破産財団から随時弁済や配当を受けることができるのに対し、相続財産の清算手続では、滞納処分の執行は制限されないことや、相続財産をもって相続債権者等に対する債務を完済することができないと認めるときには管理人は破産手続開始の申立てができることに鑑みれば、管理人による清算手続は、破産手続とその性質を異にするものであって、強制換価手続に相当するものとはいえないから、徴収法第9条は準用又は類推適用されない。したがって、管理人の報酬債権は国税に優先せず、他に被差押債権につき国税に優先する債権は確認できなかったから、本件差押処分は無益な差押えに該当しない。
 また、請求人は、管理人の報酬額が差押財産の価額を上回るにもかかわらず滞納処分による差押えを行うという運用が認められてしまうと、管理人の役職を引き受ける者がいなくなるという不当な状況に陥る可能性があり、また、原処分庁は、回収の努力もせずに、管理人の努力の結果集められたものを横取りしているに等しいことなどを理由として、本件差押処分は不当であると主張する。
 しかしながら、請求人は、国税通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》の規定により、被相続人が納付すべきであった滞納国税を納める義務を承継しているところ、本件差押処分までの2年以上の間、原処分庁から複数回の催告を受けたにもかかわらず、国税に充てる金額は残っていないとして当該滞納国税を自主納付しなかったことからすると、当該滞納国税について自主納付による完納の見込みがあったとはいえなかったのであるから、原処分庁としては、当該滞納国税を徴収するためには、財産の差押えによって回収を図らざるを得なかったというべきであり、また、公売手続に時間を要する不動産ではなく預金債権を差押えの対象とした判断が、法や制度の趣旨及び目的に照らして不合理とは認められず、本件差押処分が不当な処分であるとは認められない。

《参照条文等》
 国税徴収法第48条第2項、第47条第1項第1号

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