非居住者及び法人の納税義務

国内源泉所得

  1. 国内源泉所得(16件)
  2. 恒久的施設

外国法人との間の債権債務の相殺残高は貸付金に該当し、それに付された支払利息は当該外国法人の国内源泉所得に該当するとした事例

裁決事例集 No.26 - 107頁

 請求人と関連会社である外国法人との間の債権債務の相殺残高について、[1]当該残高は、いずれの取引に係わる債権と債務を相殺するのかを特定しないまま相殺した後の残高であること、[2]当該残高に対しては、外国法人が本国で資金調達をする際の通常利率により計算した利息が毎月付されていること、[3]当該残高の大部分は、外国法人からの資金援助によって占められていることなどから、当該残高は、実質的には外国法人の請求人に対する貸付金であり、本件利息はこの貸付金について計算されたもので、当該外国法人の国内源泉所得に該当する。

トップに戻る

元本と利子からなる債務の総額の減額がされたことにつき、本件減額はまず利子相当額からなされたものとして、所得税法第161条第6号に規定する貸付金の利子の支払額を認定するべきであるとした事例

裁決事例集 No.28 - 149頁

 外国法人との間の穀物の先物取引により生じた損失の決済に当たり、取引の当時者の合意によりその決済金額の一部が減額されたことにつき、原処分庁は、本件減額はその決済金額の積上げ計算上の元本と利子との金額の割合に応じて行われたものであると主張するが、通常取引における値引等の場合には原価相当部分を確保し、利益相当額部分を減額する一般取引慣行があることから、その減額はまず利子相当額からなるものとして所得税法第161条第6号に規定する貸付金の利子の支払額を認定すべきである。

トップに戻る

代表取締役の国外における勤務に係る報酬は、国内源泉所得に該当するとした事例

裁決事例集 No.47 - 353頁

 請求人は、請求人の代表者が海外のプラント工事に従事した期間は、同人は非居住者に該当し、かつ、同人は、元請会社の現地支店の支配人下に入り使用人として常時勤務しているから、同人に支払った報酬は国内源泉所得に該当しないと主張するが、[1]請求人の代表者が、使用人と同様の勤務をしていたとしても、それ自体は、代表者としての業務執行に従事しているものというべきであり、これを使用人としての労働とみることはできず、また、[2]代表取締役の地位にあっては、国外勤務の期間中もその勤務は、所得税法施行令第285条第1項第1号かっこ書に規定する使用人として常務する役員としての勤務には該当しないから、請求人の代表者に支給した報酬は、国内源泉所得に該当する。

トップに戻る

外国法人の標章及びシンボル・マークをサングラス・眼鏡枠に不正に使用したことを理由とする損害賠償請求訴訟事件に関して、請求人が外国法人に支払った和解金が、国内源泉所得として源泉徴収の対象となるとした事例

裁決事例集 No.47 - 360頁

 請求人は、本件和解金は、不正競争防止法に基づく損害賠償請求訴訟に係る裁判上の和解に基づいて、営業上の損害が生じたことを主な理由として支払った損害賠償金であり、標章等自体の使用権等の侵害を理由として支払ったものではなく、また、本件和解金は、商標使用料を基礎に算定しているが、商標使用料は、あくまでも損害賠償額を算定する一つの資料にすぎず、使用料の請求を認めたものではないと主張する。
 しかし、不正競争防止法による損害賠償金には、商品等表示等の使用料に相当する額を含むものであることは、明らかであり、また、所得税法第161条第7号イに規定する工業所有権等の使用料には、登録されている特許権、商標権等の権利だけでなく、登録されていなくても法令により保護されているこれからに類する権利等の使用料も含まれ、また、使用料に代わる性質を有する損害賠償金その他これに類するものが含まれると解するのが相当する。
 標章の混同による営業上の損害としては、[1]標章の使用料のいっ失による損害、[2]同一又は類似の標章を使用する類似の商品の販売等の減少による損害及び[3]標章の混同による信用ないしイメージ等の低下等による損害が考えられるところ、本件損害賠償金の算定方法は、使用料を根拠としていることから、本件損害賠償金は、上記[1]に該当すると判断され、また、外国法人は昭和56年8月27日までの請求人による標章の使用につきやむを得ない事情があるとしていることから、同法人に上記[3]の損害の認定があったことは認められず、同法人が自らサングラス等の製造・販売をしていないことは明らかであるから、同法人の損害は上記[1]の使用料のいっ失による損害のみであると認めることが相当である。
 したがって、本件損害賠償金は、その金額が所得税法第161条7号イの工業所有権等の使用料に相当し、国内源泉所得に該当する。

トップに戻る

外国籍を有する者への不動産の譲渡対価の支払時において、譲渡人は外国へ出国しているものの、多額の資産を国内に残したままであること等から判断すると、出国は一時的なものと認められ、また、譲渡人の外国人登録は閉鎖されていず、同人の永住許可も失効しておらず、かつ、同人が数次の再入国の許可をうけていたことを勘案すれば、譲渡人は、居住者に該当するものと判断することが相当であるから、当該譲渡対価の支払者には所得税法第212条に規定する源泉徴収義務はないとした事例

裁決事例集 No.49 - 374頁

 原処分庁は、Lマンション3室(本件不動産)の譲渡人は、[1]A国の国籍を有していること、[2]本件不動産の譲渡対価(本件譲渡対価)の支払時前の出国に先立ち、身の回り品の一切をB国の住所地(g市T町223番地)に搬出しており、その後再入国した事実は認められないこと、[3]国内に生計を一にする配偶者その他の親族を有しないのみならず、何らの職業も有していないこと及び[4]本件不動産を譲渡したことにより、本件譲渡対価の額に係る預金を除いて国内に資産を有しなくなった各事実が認められ、また、譲渡人の二男を譲渡人の代理人とする委任状によれば、譲渡人の住所地がB国(g市T町223番地)と記載されていることから判断すると、譲渡人が本件譲渡対価の支払時において非居住者であることは明らかであるから、請求人には、本件譲渡対価の支払について源泉徴収義務がある旨主張する。
 しかし、[1]譲渡人が居住していたLマンション101号室(譲渡人の妻の娘であるHが所有している。)には、譲渡人が所有していた絵画、蔵書及び置物等の美術品が現存していることが確認されたこと、[2]譲渡人の家事使用人として20年間住み込みで働いていたC夫婦の答述から、譲渡人は、出国後も同夫婦を家事使用人として、引き続き雇用する意思があったものと推認されること、[3]H及びC夫婦の答述から、これらのいずれもが、譲渡人の出国は一時的であり、再入国するものと認識していたことが認められること、[4]譲渡人は、本件譲渡対価の支払時に本件譲渡対価の全額により設定された定期預金を含めて多額な預金を国内に有していたこと及び[5]Hの答述から、上記[4]の預金の一部は、納税預金として残していたものと認められることを総合して判断すると、譲渡人の出国は一時的なものであり、再入国してH所有のLマンション101号室において引き続き居住する意思があったと認められる。また、譲渡人の外国人登録は閉鎖されていず、同人の永住許可も失効しておらず、かつ、同人が数次の再入国の許可を受けていたことを勘案すれば、譲渡人は居住者に該当するものと判断することが相当であるから、請求人には、本件譲渡対価の支払について所得税法第212条に規定する源泉徴収義務はない。
 なお、委任状に記載された譲渡人の住所地及び同人の荷物の搬出先の住所地がB国(g市T町233番)である旨の主張については、ここにいうところの「居住する(××語)」という用語は、[1]住んでいる又は[2]居住するということを意味するものであって、必ずしも生活の本拠たる住所地を意味するものではないから、委任状に上記の用語が使用されていることをもって譲渡人がA国に住所を有するものと断定することはできず、他方、売買契約書の「売主」欄には、譲渡人の国内における住所地が記載されているのであるから、この点に関する原処分庁の主張は採用することはできない。

トップに戻る

外国法人の従業員であった時に付与されたストック・オプションを当該外国法人の子会社である内国法人に勤務していた時に行使して得た経済的利益が給与所得とされる場合の国内源泉所得の計算は、ストック・オプションの付与日から行使日までの期間を給与の総額の計算の基礎となった期間とするのが相当であるとした事例

裁決事例集 No.64 - 232頁

 請求人は、自己が勤務していた外国法人からストック・オプションを付与され、当該外国法人の子会社である内国法人に勤務していたときに権利行使して経済的利益を得たが、当該経済的利益は、行使時において当該外国法人と雇用関係にないこと等から、給与所得には該当しない旨主張する。しかしながら、当該経済的利益は、本件被用者等(当該外国法人及びその子会社の役員及び重要な被用者をいう。)たる地位に基づき当該外国法人の株式を購入することができる権利を同社から付与され、本件被用者等として一定期間勤務することにより、これを行使して得た利益、すなわち、請求人の非独立的ないし従属的な人的役務の提供の対価であるから、給与所得に該当する。
 請求人は、ストック・オプションに係る利益の発生原因はストック・オプションの権利行使が可能となったとき(来日前)に確定しているから、本件利益の全額が国内源泉所得に当たらず、非永住者である請求人にとって非課税である旨主張する。しかしながら、勤務が国内及び国外の双方にわたって行われた場合の所得税法第161条第8号イに規定する国内源泉所得については、所得税基本通達161−28に定める計算方式によることが合理的であり、同通達に定める「給与の総額の計算の基礎となった期間」は、本件ストック・オプションの付与日から行使日までの期間と解するのが相当であり、本件利益はその一部が国内源泉所得に当たる。

トップに戻る

芸能人の人的役務の提供に係る対価には、国内において当該事業を行う者が当該人的役務の提供に関して支払を受けるすべての対価が含まれるとした事例

裁決事例集 No.65 - 283頁

 請求人は、韓国の芸能人を日本国内へ招へいし、芸能人の役務提供に係る対価として芸能報酬等を韓国芸能法人に支払っているが、その芸能報酬等には、衣装代、制作費、コミッション代、航空チケット代等の経費が含まれており、源泉徴収義務があるのは、芸能人の報酬に関してのみであるから、芸能人に支払われていない実費であるところの衣装代等の経費は韓国芸能法人を経由した支払であっても、源泉所得税の対象とならない旨主張する。
 しかしながら、芸能人の人的役務の提供に係る対価には、国内において当該事業を行う者が当該人的役務の提供に関して支払を受けるすべての対価が含まれ、また、源泉徴収をしなくてもよいことに取り扱われている非居住者等のために負担する旅費等にも該当しないことから、原処分は相当である。

トップに戻る

請求人を債務者とする金銭債権について、外国法人を担保権者とする債権譲渡担保が設定された場合において、請求人が支払った当該金銭債権に係る利子が、源泉徴収の免税証明書の交付を受けている担保設定者である外国法人の国内源泉所得として、請求人に源泉所得税の納税義務は生じないとした事例

裁決事例集 No.69 - 153頁

 原処分庁は、外国法人に対して譲渡担保が設定された金銭債権の利子は、担保権者である当該外国法人の国内源泉所得であり、当該金銭債権の利子を支払った請求人には、源泉所得税を徴収して納税する義務があるとして、源泉所得税の納税告知処分等を行った。
 しかしながら、当該債権譲渡担保においては、源泉徴収の免税証明書の交付を受けている担保設定者である外国法人が、当該金銭債権に係る元利金の収受権を保持し、かつ、実際にその利子に係る収益を享受しており、担保設定のために形式的に当該金銭債権が担保権者に譲渡されたことは明らかであるから、所得税法上、当該金銭債権の利子に係る所得は担保設定者に帰属すると解するのが相当である。
 したがって、請求人が支払った金銭債権の利子は、担保権者である外国法人に対するものとは認められないから、請求人には源泉所得税の納税義務は生ぜず、原処分はいずれもそのすべてを取り消すべきである。

トップに戻る

○○等の製造ノウハウ等の実施権許諾の対価として支払う使用料に新日米租税条約を適用してその支払の際に源泉徴収を行わなかったことについて、同条約の適用は、当該使用料の実際の支払が行われた日を基準にするのではなく、当該使用料の契約上の支払期日を基準にするとした事例

裁決事例集 No.76 - 212頁

 請求人は、請求人が平成16年7月23日に米国のグループ企業に支払った製造ノウハウ等の使用料のうち、平成16年1月分ないし5月分の各使用料については、現実の支払の時期によって租税条約の適用の有無を判断すべきであり、新日米租税条約第12条第1項が適用されるから、所得税の源泉徴収義務はないと主張する。
 しかしながら、新日米租税条約第30条第2項(a)(i)(aa)は、日本国において源泉徴収される租税に関しては、平成16年7月1日以後に租税を課される額に同条約を適用する旨規定しており、同条の「租税を課される額」とは租税を課される者にとっての課税標準と解され、これを使用料についてみると「支払を受けるべき額」を意味すると解され、これを所得の支払者(源泉徴収義務者)側からみれば源泉所得税の算出の基礎となる「支払うべきことが確定した額」と解される。そうすると、上記平成16年1月ないし5月分の各使用料は、毎暦月末を経過した時点で確定する債務であり、それらの支払期日はいずれも同年6月30日までに到来しており、その支払うべきことが確定したのは平成16年6月30日以前となるから、これに新日米租税条約は適用されず、旧日米租税条約第14条第1項が適用されるから、請求人には上記平成16年1月ないし5月分の各使用料に係る所得税の源泉徴収義務がある。

トップに戻る

土地の譲渡人は土地の譲渡代金が支払われた時に国内に住所を有していたとは認められないので、非居住者に該当するとした事例

裁決事例集 No.76 - 244頁

 請求人は、本件譲渡人が国内に住所を有していることは、当該土地等の売買契約書に添付された本件譲渡人の印鑑登録証明書により確認しているから居住者である旨主張する。
 しかしながら、本件譲渡人の住民票(除票)の内容及び出入国状況によれば、本件譲渡人は、本件不動産売買契約に際して平成16年8月○日に帰国する直前まで国外に住所を有していたと認められる。また、本件譲渡人の住民票(除票)及び印鑑登録証明書は、同日に帰国し契約交渉後に出国するまでの滞在期間における本件譲渡人の住所が住民票記載地であったことを示す内容となっているが、実際には本件譲渡人は、当該滞在期間中、ホテルにて宿泊しており、住民票記載地において生活していたことをうかがわせる証拠はない上、本件譲渡人が住民票記載地を住所として届け出たことは、当該土地等の売買契約の締結のための一時的な事情によるものであったと認められる。さらに、本件譲渡人は、平成16年9月○日に出国するとともに、住民票も国外に転出させている。
 これらの事実によれば、本件土地等の譲渡による対価が支払われた平成16年10月○日において、本件譲渡人が国内に住所を有していたとは認められない。
 また、本件譲渡人は、本件売買代金が支払われた平成16年10月○日以前1年以上の間には、平成15年9月○日に日本国を出国後、再び日本国に滞在した期間は本件滞在期間(16日間)のみであることから、当該土地等の譲渡による対価が支払われた日まで引き続いて1年以上居所を有していたとは認められない。

トップに戻る

傭船した船舶を自己所有として減価償却費を計上していた内国法人と当該船舶を提供したM国法人との契約は、法形式及び契約内容から当該船舶の所有権留保付割賦売買契約ではなく、裸傭船契約(船舶賃貸借契約)であると認められるから、支払傭船料は国内源泉所得として源泉徴収課税すべきであり、当該船舶の減価償却費の計上は認められないとした事例

裁決事例集 No.77 - 161頁

 請求人は、原処分庁が、1請求人がM国船籍の船舶を所有するM国法人3社と締結した本件各契約に基づいて支払った本件各金員は、所得税法第161条第3号に規定する国内源泉所得となる「船舶の貸付けによる対価」に該当するとして行った納税告知処分等、及び2本件各契約は裸傭船契約であるから、本件各船舶に係る減価償却費は計上することはできないとして行った法人税の更正処分等について、本件各契約は、裸傭船契約の書式を使用しているが、同時に船舶の買取りの権利・義務に関する覚書を締結することにより、所有権留保付割賦売買契約となるもので、本件各船舶は請求人が本件各M国法人から取得したものであるから、1本件各金員は、裸傭船料ではなく本件各船舶の取得に係る割賦代金であり、同条第3号に規定する国内源泉所得には該当しない旨、また2本件各船舶の取得価額を基に算定された減価償却費は損金の額に算入されるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件各契約は、裸傭船契約書の書式を用いて行われており、その記載内容を読む限り、裸傭船契約(船舶賃貸借契約)であると解するのが自然である。そして、請求人にとっては、本件各船舶を自ら所有して、日本船籍の船舶として使用するよりも、本件各M国法人が所有するM国船籍の船舶を借りて使用する方が、経済的にメリットがあることからすれば、請求人が、売買契約ではなく裸傭船契約の法形式を選択することには合理性がある。さらに、請求人は、裸傭船契約であることを前提とした経理処理を行っているから、請求人自身、本件各契約を、所有権留保付割賦売買契約ではなく、裸傭船契約であると認識していたといえ、また、本件各M国法人も、その経理処理からすれば、本件各契約を裸傭船契約と認識していたといえる。以上によれば、本件各契約は、所有権留保付割賦売買契約ではなく、裸傭船契約(船舶賃貸借契約)であると認められる。
 したがって、原処分庁が行った納税告知処分等は適法であり、請求人が本件各契約締結時に本件各船舶を取得した事実はないため、原処分庁が行った更正処分等も適法である。

トップに戻る

E国法人に対して支払ったゲームソフトの開発委託費は、国内源泉所得である著作権の譲渡等の対価に該当し、非居住者等に対する源泉所得税の課税対象となるとした事例

裁決事例集 No.78 - 208頁

 請求人は、原処分庁がゲームソフトの開発委託契約(以下「本件開発委託契約」という。)に基づいて請求人がE国法人に支払った金員は国内源泉所得となる所得税法第161条第7号ロに規定する著作権の使用料又は譲渡の対価に該当するとして行った源泉所得税の納税告知処分等について、当該金員は開発委託に対する対価であるから源泉所得税の課税対象となる国内源泉所得に該当しない旨主張する。
 しかしながら、本件開発委託契約の目的は、E国法人が保有する原著作物を基礎とした新たなゲームソフトの開発及び販売であり、その本体をなす合意は、E国法人から請求人に対する当該ゲームソフトの二次的著作物に係る著作権の譲渡又は使用許諾であるといえるから、本件開発委託契約に基づいて支払った金員は、当該二次的著作物に係る著作権の譲渡又は使用許諾の対価にほかならないから、源泉所得税の課税対象となる国内源泉所得に当たるとみるのが相当である。

トップに戻る

製造に係る技術導入契約に基づいて外国法人に対して支払った金員が所得税法第161条第7号イに規定する工業所有権等の使用料に該当するとした事例

裁決事例集 No.79

 請求人は、外国法人であるD社及びE社との間で締結した○○機器に係る技術導入契約に基づき、契約当初及び契約譲渡後に支払った払込金は、独占販売権の対価であり、ロイヤリティは別途販売実績に応じて支払うこととされているから、所得税法第161条第7号イに規定する「工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの」の使用料には該当しないから、本件納税告知処分は違法である旨主張する。
 しかしながら、当該技術導入契約においてD社及びE社から請求人に対し、規制当局の承認を取得する権利や○○試験の実施、規制当局の承認の取得等のために技術情報を使用する権利が許諾され、請求人は実際にD社及びE社が独自に有する特定の技術についての情報を含む有用な情報の提供を受けていることからすると、請求人はライセンサーであるD社及びE社から開発権の許諾を受け、技術情報の提供を受けるための対価として払込金を支払っていたものとみるのが相当である。そして、提供された技術情報には○○機器の製造工程についての独自に開発された情報や特別に技術的価値を有する知識が含まれていることから、この技術情報は、所得税法第161条第7号イに規定する「特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの」に該当し、請求人はD社及びE社から開発権の許諾に基づき技術情報の提供を受けて、当該技術情報を使用しているものと認められることから、当該払込金は、「技術等に係る実施権若しくは使用権の設定、許諾」の対価と認められ、所得税法第161条第7号イに規定する使用料に該当する。

《参照条文等》
所得税法第161条第7号イ
所得税基本通達161−22、161−23
日P租税条約第○条、第○条
日Q租税条約第○条、第○条

トップに戻る

海外勤務者の帰国後に請求人が負担した外国所得税について、支払事務が国外において行われていたとして所得税の源泉徴収を要しないとした事例

平成23年6月28日裁決

《ポイント》
 この事例は、所得税法183条に規定する「国内において給与等の支払をする」の解釈を示したものである。

《要旨》
 原処分庁は、請求人の海外事業所に勤務していた海外勤務者本人が納付すべき外国所得税について、請求人が当該海外勤務者の帰国後に同人らに代わり納付したことは、当該海外勤務者に経済的利益の供与(給与等の支払)をしたものであり、当該海外勤務者の海外事業所勤務期間中の所属先が請求人のa本社であったことからすれば、a本社において外国所得税の納付(給与等の支払)事務を行っていたことになるから、支払が国内において行われたこととなり、請求人には源泉徴収義務がある旨主張する。
 しかしながら、当該外国所得税の納付に関しては、まる1当該海外事業所あるいは当該海外事業所からその事務を委託された現地の会計事務所が、当該海外勤務者の所得税額の計算及び申告・納税の手続を行っていたこと、まる2当該海外事業所の所長が納付すべき税額の確認及び支出の決定を行っていたこと、まる3当該海外事業所が当該外国所得税の納税の資金手当を行っていたことからすると、当該外国所得税に係る支払事務は当該海外事業所で行われていたと認めるのが相当である。そうすると、当該外国所得税の納付(給与等の支払)事務は国外において行われていたと認められるから、請求人に源泉徴収義務はないというべきである。

《参照条文等》
 所得税法第183条第1項

《参考判決・裁決》
 東京地裁平成18年1月24日判決(訟月54巻2号531頁)
 東京地裁昭和59年10月16日判決(訟月31巻6号1448頁、行集35巻10号1636頁)

トップに戻る

国外で勤務する請求人の役員は常時使用人として勤務しているとは認められないから当該役員に対する報酬は国内源泉所得に該当するとした事例

平成24年5月10日裁決

《要旨》
 請求人は、請求人の取締役の役員報酬について、当該取締役は、海外において請求人の使用人としての職務である海外営業本部長等として勤務しており、所得税法施行令第285条《国内に源泉がある給与、報酬又は年金の範囲》第1項第1号に規定する「使用人として常時勤務する場合」に該当するから、当該役員報酬は国内源泉所得には該当しない旨主張する。
 しかしながら、まる1当該役員報酬のうち、国内における取締役会や経営執行会議への出席など、当該取締役の国内業務に基因する部分は、所得税法第161条《国内源泉所得》第8号イに規定する国内源泉所得に該当することは明らかであること、まる2当該取締役は請求人の海外子会社の社長として勤務していたところ、当該子会社の社長としての勤務は、請求人の使用人として勤務することに当たらないことは明らかであること、まる3当該取締役の国外における勤務は、国外における請求人の実態、当該取締役の請求人における実質上の地位、役割、職務の内容等を併せ考えると、経営判断による企業経営といった職務に関するものであり、請求人の使用人としてではなく、役員としての勤務であったと認めるのが相当であることから、当該取締役の勤務は「使用人として常時勤務する場合」に該当しないというべきであり、当該取締役に対する役員報酬は、国内源泉所得に該当する。

《参照条文等》
 所得税法第161条第8号イ
 所得税法施行令第285条第1項第1号
 所得税基本通達161−29、161−30

《参考判決・裁決》
 平成6年5月25日裁決(裁決事例集No.47・353頁)

トップに戻る

外国法人に対して支払った航空機操縦士の派遣に係る報酬は所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価に該当するとした事例

平成24年10月24日裁決

《ポイント》
 本事例は、請求人が外国法人に支払った金員には、人的役務の提供に係る対価に該当しないものが含まれているとした一方、請求人が当該外国法人に代わって支払った住宅家賃等は人的役務の提供に係る対価に含めるべきであるとして、当該外国法人に対する国内源泉所得の対価の額を算定し直した結果、納付すべき税額が原処分の額を下回る月があるから、原処分はその一部を取り消すべきであるとしたものである。

《要旨》
 請求人は、外国法人から派遣を受けた航空機の操縦に従事する乗務員(派遣乗務員)は、派遣時において有する既存の免許及び経験だけでは請求人が運航する航空機の機長として操縦することができないから、所得税法施行令第282条《人的役務の提供を主たる内容とする事業の範囲》第3号に規定する「専門的知識又は特別の技能を有する者」(特別技能者等)には該当せず、また、仮に該当するとしても、当該外国法人は運航代行業を営んでいるものではないから、請求人が当該外国法人に支払った対価は所得税法第161条《国内源泉所得》第2号に規定する人的役務の提供に係る対価に該当しない旨主張する。
 しかしながら、派遣乗務員は、まる1派遣時においてICAO(国際民間航空機関)加盟国であり国際民間航空条約の締約国である外国の政府が授与した航空業務の技能に係る資格を有しており、我が国において航空業務に従事するために必要な知識又は技能を一定程度有している者として評価できること、まる2派遣乗務員の総飛行時間は、我が国における○○運送用操縦士の資格を取得する際に必要とされる飛行時間をはるかに上回るものであり、定期運送用操縦士として一定の経験を有していると認められることなどからすれば、派遣乗務員の派遣時における航空機の操縦に関する知識又は技能は、航空機の操縦の分野に関する一般的な知識又は技能のレベルを相当程度超える高度な知識又は技能であると認めるのが相当であるから、派遣乗務員は特別技能者等に該当するというべきである。また、航空機の乗務員を派遣する事業を行う当該外国法人は、特別技能者等の当該知識又は技能を活用して行う役務の提供を主たる内容とする事業を行う者に該当するといえることから、請求人が当該外国法人に支払った対価は、所得税法第161条第2号に規定する人的役務の提供に係る対価に該当する。

《参照条文等》
 所得税法第161条第2号
 所得税法施行令第282条第3号

トップに戻る