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公売公告
差し押さえられている自宅建物についての任意売却の申出を認めずに公売公告処分を行ったことが権利の濫用に当たるとはいえないとした事例
請求人は、原処分庁が任意売却の申出を認めずに請求人の居住用財産である本件建物の公売処分を強行したことは、権利の濫用に当たる旨主張する。
しかしながら、差押財産を換価するときは、公売によって行うこととされており、納税者の居住用財産を換価する場合に、納税者の事情を考慮した換価手続を行わなければならない又は公売以外の方法により換価しなければならないとする法令上の規定は存在しない。そして、公売は、差し押さえた財産を買受希望者の自由競争に付し、その結果形成される最高価額により売却価額及び買受人となる者を決定するための一連の手続であり、強制換価手続である国税滞納処分の手続の公正を維持しながらも、なるべく高価で納税者に有利な売却を行うことをある程度まで制度的に保障しようとする手続であると解される。本件において、原処分庁が請求人からの任意売却の申出を認めずに公売を行ったことは、法令上の規定に従ったものであり、また、請求人の申出に係る任意売却による買受希望者が公売に参加し最高価で入札することもできたのであるし、さらに、強制換価手続において納税者の権利利益も保護しようとする上記の公売の趣旨及び目的に反する事実は見当たらないから、本件公売公告処分が権利の濫用に当たり違法又は不当ということはできない。
平成19年11月28日裁決
売却決定日時及び買受代金の納付期限を変更する旨の公売公告処分に違法な点はないとした事例
国税通則法第105条第1項ただし書は、国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立てがあったときは、その国税の徴収のため差し押さえた財産の滞納処分による換価は、その財産の価額が著しく減少するおそれがあるとき、又は不服申立人から別段の申出があるときを除き、その不服申立てについての決定又は裁決があるまで、することができない旨規定しているところ、本件では、原処分庁が当初ないし第4次の各公売公告において、売却決定の日時を定めたのに対し、その都度請求人から不服申立てがなされ、同不服申立てについての決定又は裁決がなされる前に、予定されていた売却決定の日時が経過したため、売却決定が行われなかったものであり、その過程に何ら違法な点はない。そして、本件公売公告は、第4次公売公告等に対する不服申立手続についての裁決がなされた後、売却決定の日時等を変更する旨を公告したものであるから、適法である。
これに対し、請求人は、異議申立てにより前回までの売却決定が中止されたことから、本件公売公告も違法であると主張するが、本件不動産の売却決定が行われなかったのは、上記のとおり、国税通則法第105条第1項ただし書の規定によるのであって、公売処分に違法性があるためではない。また、請求人は、前回までの売却決定の中止決定等がなされていないとも主張するが、このような場合に中止決定等をしなければならない旨の規定はない。
また、請求人は、見積価額が低廉であるから本件公売公告が違法であるとも主張するが、本件見積価額公告及び決定処分はいずれも適法なものとして存在しているところ、本件公売公告は、売却決定の日時及び買受代金の納付期限を変更したものであり、見積価額の適否は、本件公売公告の適否に影響しない。
《参照条文等》
国税徴収法第95条第1項
国税通則法第105条第1項
平成22年2月18日裁決
公売公告を行う際の調査不足及び財産調査の手続違法は、公売公告処分の取消事由には当たらないとした事例
《ポイント》
この事例は、主たる主張として国税徴収法第95条第1項に規定する公売公告において「第三者が使用している」旨を記載したことの適否が争われたものであるが、その他に、権利関係の調査が不十分であること、また、調査手続に違法があるとして公売公告処分の取消しが求められ、それに対して財産調査が公売公告処分の要件とはならないことを理由に違法はないと判断したものである。
《要旨》
国税徴収法第95条《公売公告》第1項が公売に先立って公売公告事項を公告しなければならない旨規定している趣旨は、公売に先立って、公売財産(公売に付す差押財産)を特定するとともに、売却決定日時や公売保証金の要否、買受代金の納付期限及び公売財産の権利関係などの買受人の負担等を広く周知することによって、公売財産の需要を喚起し、高価での買受申込みを誘引するとともに、買受希望者に対して入札するか否かの判断資料を提供することにあると解される。
本件においては、公売財産上の賃借権等の権利の内容として、「第三者が使用している」旨の記載の程度については、本件公売公告処分の時点において、複数の第三者が本件各不動産の一部をそれぞれ使用しており、土地の所有権の移転について、第三者の一人は農地法第3条《農地又は採取放牧地の権利移動の制限》の許可を得ているにも関わらず、所有権の移転登記が経由されておらず、登記簿上の所有者は請求人のままであること、また、賃借権の設定について農地法第3条の許可がされていることからすれば、原処分庁は本件各不動産を使用する権原が明らかでなかったことにより「第三者が使用している」と記載したものと考えられ、その記載の程度が公売公告事項として適切でないということはできない。そうすると、その他の公売公告事項についても国税徴収法第95条第1項の規定に基づき適切に記載されていることから、本件公売公告処分に記載不備の違法はない。
《参照条文等》
国税徴収法第95条
見積価額が低廉であることを理由として公売公告処分の取消しを求めることはできないとした事例(
公売公告処分、
見積価額公告・
棄却、
却下・平成26年8月21日裁決)
《要旨》
請求人は、原処分庁が行った公売公告処分(本件公売公告処分)について、当該公売に係る公売財産(本件公売財産)の見積価額が低廉であるから、本件公売公告処分は比例原則に違反し違法である旨主張する。
しかしながら、見積価額公告は、法令上、公売公告処分の後にされることが予定されているところ、かかる見積価額公告の内容いかんによって公売公告処分の適否が左右されることはないと解され、見積価額の適否は、公売公告処分の取消しを求める審査請求において取消理由となり得ない。したがって、請求人は、本件公売財産の見積価額が低廉であることを理由として本件公売公告処分の取消しを求めることはできない。
《参照条文等》
国税徴収法第95条第1項、第99条第1項
《参考判決・裁決》
最高裁昭和39年10月29日第一小法廷判決(民集18巻8号1809頁)
見積価額の適否は、公売公告処分の適法性には影響しないとした事例(公売公告処分・棄却・平成30年10月22日裁決)
《ポイント》
本事例は、見積価額は、公売公告事項ではなく、公売公告とは別個独立に公告されることが予定されている上、見積価額の公告は、公売公告がされた後においてもすることができることとされていることから、見積価額の適否は、公売公告処分の適法性には影響しないと判断したものである。
《要旨》
請求人は、公売財産に係る見積価額が低廉であるから、公売公告処分(本件公売公告処分)は違法であり取り消されるべきである旨主張する。
しかしながら、見積価額は、徴収法第95条《公売公告》第1項に規定する公売公告事項ではなく、公売公告とは別個独立に公告されることが予定されている上、見積価額の公告は、公売公告がされた後においてもすることができることとされている。この点、本件公売公告処分と見積価額公告は同時にされたことが認められるものの、徴収法の定めに鑑みると、法的には、別個独立の公告が同時にされたものと評価するほかないものである。そうすると、見積価額の適否は、徴収法上、見積価額公告の後に行われることとなっている最高価申込者の決定処分又は売却決定処分の違法事由を構成し得るものの、公売公告処分の適法性には影響せず、本件公売公告処分の違法事由を構成し得ないというべきである。したがって、請求人は、公売財産に係る見積価額が低廉であることを理由として本件公売公告処分の取消しを求めることはできない。
《参照条文等》
国税徴収法第95条第1項、第99条第1項
《参考判決・裁決》
東京高裁平成28年1月14日判決(裁web)
公売公告処分は、原処分庁が分割納付誓約期間内に公売に付したという時期の判断において、その裁量権の行使が差押財産の換価に関する制度の趣旨・目的に照らして合理性を欠く不当な処分であると判断した事例(公売公告処分・全部取消し)
《ポイント》
本事例は、請求人の自主納付の見込み、公売による換価額、差押財産の公売による請求人への影響等の諸般の事情をも考慮すると、公売に付した時期の判断において、その裁量権の行使が差押財産の換価に関する制度の趣旨・目的に照らして合理性を欠く不当な処分であると判断したものである。
《要旨》
原処分庁は、差押財産を公売に付すべき時期については、国税の徴収の所轄庁の合理的な裁量に委ねられていると解されており、請求人が所有する各不動産(本件各不動産)の公売公告処分(本件公売公告処分)は、公売に付すべき時期について裁量権の範囲内で合理的に行われたものであるから、違法又は不当な処分ではない旨主張する。ところで、換価に関する時期の判断に当たっては、滞納者の個々の実情を踏まえ、国税の効果的な徴収に向け、個々の滞納事案における自主納付の見込み、公売による換価額、差押財産の公売による滞納者への影響等諸般の事情をも考慮して判断することが相当と解されるところ、本件は、請求人には自主納付による完納の見込みがないこと、本件各不動産の換価額として相応の金額が見積もられていたこと、本件各不動産の公売が必ずしも請求人の事業の継続を不可能にするものではないことなどの事情があり、これらの事情を考慮すれば、本件各不動産を公売に付する時期について、原処分庁に裁量権の範囲の逸脱又は濫用があったとは認められないから、本件公売公告処分は適法である。
しかしながら、原処分庁の裁量権の行使が、差押財産の換価に関する制度の趣旨・目的に照らし合理性を欠く場合には不当と判断すべきであるところ、本件は、請求人が提出した分割納付誓約書の誓約期間(本件分割納付誓約期間)内に、納付計画どおりの自主納付をする蓋然性が高く、また、本件分割納付誓約期間内に本件各不動産を直ちに換価することで、換価額の下落の回避又は換価額の相対的な価値の維持ができたなどの徴収上有利となる事情がない。また、原処分庁の徴収担当職員が、本件分割納付誓約期間内に本件各不動産が公売に付されることはないとの請求人の期待を排斥しなかったことにより、本件各不動産の代替土地を確保し得る機会及び期間が事実上なくなり、公売による請求人の事業に対する影響がより大きくなったことなどの事情があり、これらの事情を考慮すれば、本件公売公告処分は、公売に付する時期の判断において、その裁量権の行使が、差押財産の換価に関する制度の趣旨・目的に照らして合理性を欠く不当な処分であるといえる。
《参照条文等》
国税徴収法第95条第1項、第96条
《参考判決・裁決》
東京地裁平成30年9月6日判決(金融法務事情2119号86頁)
公売公告処分は、原処分庁が公売に付した時期の判断において、租税公平主義に反する違法はないと判断した事例(公売公告処分・棄却)
《ポイント》
本事例は、公売実施の判断について、滞納整理の経緯、納付状況、差押財産の換価の見込額等を考慮すると、その裁量権の行使が租税公平主義に反しているとは認められないと判断したものである。
《要旨》
v請求人は、原処分庁がした公売公告処分(本件公売公告処分)について、同処分に先行して行われた差押処分(本件差押処分)に違法があるから、本件公売公告処分に係る財産のうち、買受申込みがないまま買受申込期間が満了した財産又は買受申込期間満了後に最高価申込者が買受申込みの取消しをした財産についても、当該処分の取消しを求める請求の利益がある旨主張する。
しかしながら、これらの各財産を再び公売するには改めて買受申込期間を定めて公売公告以下の公売手続を踏まなければならないから、本件公売公告処分に係る財産のうち、当該各財産に係る部分はその法的効果を失い、その取消しを求める法律上の利益は消滅したものというべきである。
また、請求人は、徴収法第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》第2項の無益な差押えとは、差押時における対象財産の処分予定価額が滞納処分費及び優先債権額の合計額を超える見込みがない場合だけでなく、差押財産の見積価額が分割納付額に満たない場合も含むと広く解釈されるべきであり、そうすると本件差押処分は無益な差押えの禁止に反し違法であるから、これに続く本件公売公告処分は取り消されるべきである旨主張する。
しかしながら、差押えの対象となる財産の価額がその差押えに係る滞納処分費及び優先債権額の合計額を超える見込みのないことが一見して明らかでない限り、直ちに当該差押えが違法となるものではないと解するのが相当であるところ、本件差押処分当時、その対象となる財産の処分予定価額が滞納処分費及び優先債権額の合計額を超える見込みのないことが一見して明らかではないことから、本件差押処分に無益な差押えの禁止に反する違法はない。
おって、請求人は、徴収法に公売をしなければならない旨の規定があるが、実際にそのとおりに行われているわけではなく、滞納国税を完納する目途が立っている場合には公売をしないという基準があるはずであるから、本税が完納となっており、延滞税等も最長でも6年以内の完納の目途が立っていたにもかかわらず行われた本件公売公告処分は、この基準に反し、租税公平主義に反する違法がある旨主張する。
しかしながら、公売の実施については、滞納整理の経緯、納付状況、差押財産の換価の見込額等を踏まえた上での税務署長等の合理的な裁量に委ねられているから、差押財産について公売が一律に実施されるわけではない。加えて、換価事務提要において、本税が完納で延滞税等も完納の目途が立っている場合には公売をしないという基準は存在せず、本件公売公告処分に関する原処分庁の判断は、換価事務提要の合理性を有する定めに従ったものであるから、租税公平主義に反するものではない。
《参照条文等》
国税徴収法第48条第2項、第95条第1項、第96条
《参考判決・裁決》
高松高裁平成11年7月19日判決(租税判例年報11・791頁)
東京地裁平成30年9月6日判決(金法2119号86頁)
東京地裁平成28年12月21日判決(租税関係行政・民事判決集(徴収関係)平成28年1月〜平成28年12月順号28-42)
名古屋地裁平成25年4月26日判決(税資(徴収関係判決)平成25年順号25-17)
請求人は差押通知を受けるべき者に当たらず、また、借地権に関する記載が不十分であるとは認められないことから、公売公告処分は違法又は不当ではないとした事例(公売公告処分・棄却)
《ポイント》
本事例は、請求人は、借地権者ではあるが借地上の建物に所有権の登記をしていないことから、差押通知を受けるべき者に当たらず、また、請求人の借地権については、公売の買受人がこれを引き受けないから、公売公告において、土地上に借地権を主張する者がいること等の記載をもって、買受人がその現況を把握できる程度に記載されたものということができるとした事例である。
《要旨》
原処分庁は、請求人が借地権(本件借地権)を有する土地(本件土地)について、請求人は本件借地権の登記をしておらず、また、本件土地上に請求人名義で登記されている不動産を所有したこともないことから、このように借地権についての対抗要件を具備していない請求人は、そもそも権利を保護するに値しないのであり、公売公告処分(本件公売公告処分)により、直接自己の権利又は法律上の利益を侵害されることはないから、本件公売公告処分について、不服申立てをすることができる者に当たらない旨主張する。
しかしながら、請求人は、本件公売公告処分に基づく公売の結果、本件借地権を失うことになることから、自己の権利を侵害されるおそれのある者というべきであり、したがって、請求人は、本件公売公告処分について不服申立てをすることができる者に該当する。
請求人は、請求人が本件借地権を有する本件土地について、原処分庁が差押処分をした際に、国税徴収法第55条《質権者等に対する差押えの通知》の規定による通知を受けておらず、また、本件土地の公売公告において、本件借地権の目的となっていることが明確に記載されていないことから、請求人に不利な内容となっており、本件公売公告処分は違法又は不当である旨主張する。
しかしながら、請求人は、本件借地権の登記をしておらず、また、本件土地上に請求人名義で登記されている不動産を所有したこともなく、対抗要件を具備していないことからすると、国税徴収法第55条の規定による通知を受けるべき者には当たらず、また、本件借地権に関する記載が不十分であるとは認められないことから、本件公売公告処分は違法又は不当ではない。
《参照条文等》
国税通則法第75条第1項
国税徴収法第55条、第95条第1項
公売公告処分は、差押通知を欠いたまま行われ、また、公売公告処分に、「公売に関し重要と認められる事項」に係る記載が漏れていることから、公売公告処分には取り消し得べき瑕疵があるとした事例(公売公告処分・全部取消し)
《ポイント》
本事例は、事前手続である差押通知を欠いたまま後続処分である公売公告処分がされた場合には、同処分には取り消し得べき瑕疵があり、また、公売対象の土地上に買受人が引き受けるべき借地権が存在する場合には、公売公告において、借地人が対抗要件を備えていることを記載することを要するとした事例である。
《要旨》
原処分庁は、請求人が借地権(本件借地権)を有する土地(本件土地)について、請求人は本件借地権の登記をしておらず、また、本件土地上に請求人名義で登記されていた不動産は、公売公告処分(本件公売公告処分)より前に取り壊された上、滅失登記がされているところ、その後、借地借家法第10条《借地権の対抗力》第2項が規定する掲示等による対抗措置をしていないことから、このように借地権について対抗要件を具備していない請求人は、そもそも権利を保護するに値しないのであり、本件公売公告処分により直接自己の権利又は法律上の利益を侵害されることはないから、本件公売公告処分について、不服申立てをすることができる者に当たらない旨主張する。
しかしながら、請求人は、原処分庁が行った本件土地の差押処分に際して、本件土地の借地権者として国税徴収法(徴収法)第55条《質権者等に対する差押えの通知》の規定による通知を受けるべき者に該当するにもかかわらず、当該通知を受けておらず、また、請求人は、徴収法第50条《第三者の権利の目的となっている財産の差押換》の規定による差押換請求権を有する者であるにもかかわらず、差押換えを請求できる機会を与えられなかったことから、本件公売公告処分について、不服申立てをすることができる者に該当する。
また、原処分庁は、請求人が本件借地権を有する本件土地の差押処分に際して、請求人は徴収法第55条に規定する通知を受けるべき者に当たらず、また、公売公告には、徴収法第95条《公売公告》第1項各号所定の事項が不備なく記載されており、賃貸借契約の内容として賃貸借契約書を添付していることから、本件公売公告処分は適法であり、不当でもない旨主張する。
しかしながら、請求人は徴収法第55条に規定する通知を受けるべき者に該当するところ、当該通知の趣旨は、利害関係人に滞納処分が開始されたことを了知させ、徴収法第50条の規定による差押換請求権を行使する機会を与えることにあり、利害関係人の権利を保護するための重要な意義を有しているにもかかわらず、本件公売公告処分は、当該通知を欠いたまま行われており、また、本件借地権は買受人に対抗することができる権利であるにもかかわらず、公売公告にはその旨が明記されておらず、よって、徴収法第95条第1項第9号の「公売に関し重要と認められる事項」に係る記載が漏れていることから、本件公売公告処分には取り消し得べき瑕疵がある。
《参照条文等》
国税通則法第75条第1項
国税徴収法第55条、第95条第1項