推計課税

推計課税

  1. 推計課税(22件)

必要経費を実額により計算することが可能な場合において、その必要経費を経費率によって推計計算することは許されないとした事例

裁決事例集 No.32 - 77頁

 請求人は、必要経費の計算について、青色申告書以外の申告書の提出者(いわゆる白色申告者)との権衡上、実額計算が可能である場合であっても、白色申告者に適用される経費率による推計計算が有利であると認めるときは、その選択により、推計計算が許されるべきであると主張するが、所得税法では、実額計算が原則であり、推計計算は実額計算ができない場合にやむを得ず許される補完的な計算方法であるから、実額計算が可能である場合には、推計計算は許されない。
 したがって、請求人は、青色申告者であり、事業所得に関する所定の帳簿書類を備え、継続記録を有しており、事業所得の金額計算について実額計算が可能であるから、請求人の主張は採用できない。

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原処分庁は、各店舗の水道光熱費を基礎として同業者比率法により各店舗ごとの所得金額を算定しているが、各店舗の水道光熱費の合計金額を基礎とする推計方法がより合理的であるとした事例

平成23年6月24日裁決

《ポイント》
 請求人が原処分庁と異なる推計方法を主張した場合には、裁決において、いずれがより合理的な推計方法であるかを判断し、他に、より合理的な推計方法があればそれを採用することとしているところ、この事例は、請求人が主張する推計方法により所得金額が算定できるか否か、また、どのような推計方法(何を推計の基礎とするか)がより合理的であるかを判断したものである。

《要旨》
 請求人は、所得金額の推計方法は資産負債増減法によるべき旨主張し、一方、原処分庁は、請求人と同業種であると認められる個人事業者のうち、水道光熱費の金額が請求人の各店舗ごとに0.5倍以上、2倍以下である青色申告者を類似同業者として抽出し、当該類似同業者の水道光熱費の総収入金額に占める割合の平均値(平均水道光熱費率)を求め、請求人のそれぞれの店舗ごとの水道光熱費の金額を平均水道光熱費率で除して店舗ごとの総収入金額を算出し、さらに類似同業者の所得率の平均値(平均所得率)を乗じて算出する方法によるべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人から提出された貸借対照表は請求人の資産をすべて網羅したものであるとは認められないから、当該貸借対照表に基づいた資産負債増減法による推計の方法を採用することはできない。
 また、原処分庁は、店舗ごとに水道光熱費を推計の基礎として所得金額を算出して合計する方法を採っているが、請求人は、近接する地域内の各店舗において「スナック」という同一の業種を営んでいるから、請求人が営む事業全体を事業規模の判断要素とし、それとの近似性という観点から、各店舗の水道光熱費の合計金額を基礎として、これにより「スナック」を営む同業者の中から類似同業者を選定し、当該類似同業者の平均水道光熱費率及び平均所得率を適用して、請求人の総収入金額及び事業所得の金額を算定する方法がより合理的である。

《参照条文等》
 所得税法第156条

《参考判決・裁決》
 東京地裁昭和61年5月26日判決(税資152号192頁)

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原処分庁が用いた同業者比率法による推計において、同業者の選定漏れがあったとした事例

平成23年6月9日裁決

《ポイント》
 裁決においては、請求人が特に推計方法に合理性がない旨を主張していない場合であっても、必ずその合理性につき判断することとしているところ、この事例は、争点とはなっていなかったが、同業者比率法による推計の合理性について審理し、原処分庁の選定した類似同業者以外にも、請求人の事業所得の金額を推計する際に選定されるべき類似同業者の存在を認めたものである。

《要旨》
 原処分庁は、請求人の本件各年分の事業所得の金額を、総収入金額に類似同業者の平均特前所得率(類似同業者の青色申告特典控除前の事業所得の金額を総収入金額で除した数値の平均値)を乗じて推計の方法により算定しているところ、およそ業種、業態に類似性のある同業者にあっては、特段の事情がない限り、同程度の収入に対して同程度の所得を得るのが通例であり、このことは請求人の営む事業の場合にあっても例外ではなく、かつ、請求人に特段の事情があるとは認められないから、原処分庁の用いた推計方法には合理性があると認められる。
 ところで、原処分庁は、国税局管内に事業所を有し、請求人と同業種の者で、かつ、その年分の総収入金額が請求人のそれの0.5倍以上2倍以下であるなど事業規模の類似する事業を営む青色申告者を類似同業者として、本件各年分について各5件を選定しているところ、原処分庁の類似同業者の選定方法についてその適否を審理した結果、類似同業者の選定漏れが平成18年分については1件、平成19年分及び平成20年分については各6件認められることから、本件各年分の平均特前所得率を再計算すると、いずれも原処分庁の主張する率を下回ることとなる。

《参照条文等》
 所得税法第156条

《参考判決・裁決》
 東京地裁昭和61年5月26日判決(税資152号192頁)

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請求人の売上金額を割箸の仕入本数から推計により算定することは必ずしも合理的であるとはいい難いとした事例

平成23年6月17日裁決

《ポイント》
 この事例は、割箸の仕入本数を推計の基礎項目とする原処分庁主張の推計方法が必ずしも合理的とはいい難いとして、水道光熱費の金額を推計の基礎項目とし、事業所得の収入金額及び課税資産の譲渡等の対価の額を推計したものである。

《要旨》
 原処分庁は、焼肉店を営む請求人の事業所得の収入金額を推計する方法として、割箸の年間仕入本数から客数への反映のない本数を5%として控除した本数を推定客数とし、客1人当たりの平均単価を乗じて算定する方法が合理的である旨主張する。
 確かに、来客数が増加すれば、割箸の消費量も増加し、それに伴い収入金額も増加することから、店舗で費消された割箸と当該店舗の収入金額には、一定の相関関係があるといえる。このことから、推計課税において割箸を効率項目として用いる計算方法は、一応の合理性が認められる。
 しかしながら、原処分庁が採用したロス率(5%)それ自体について合理的な算定根拠を確認することができないのみならず、割箸の仕入れの態様等にもかんがみると、ある年における割箸の実際の費消本数とその年の割箸の年間仕入本数(1,000本単位での仕入れがされている。)との間の相関関係は概括的、近似的にしか把握し得ないのが通常であると考えられるから、割箸の年間仕入本数のうちその年の客数に反映しない本数を当該年間仕入本数に基づいて割合的に把握する推計方法自体が必ずしも合理的とはいい難い。
 飲食店営業の場合、類似同業者にあっては、特段の事情がない限り、同程度の水道光熱費の割合に対し、同程度の収入を得、同程度の収入に対し、同程度の所得を得るのが通例であり、請求人の営む事業についても上記特段の事情はうかがわれないことからすれば、請求人の事業所得の金額を算定するに当たっては、請求人の水道光熱費の金額を類似同業者の収入金額に対する水道光熱費の金額の占める割合の平均値で除すことにより、収入金額を算定し、同業者所得率を乗じる方法が、他により合理的な推計の方法が見当たらない本件においては合理的であるということができる。

《参照条文等》
 所得税法第156条

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請求人の事業所得の金額を推計により算定する際に用いた同業者率の算定が合理的でないとした事例

平成23年6月23日裁決

《ポイント》
 この事例は、同業者比率法による推計課税において、損失の金額が生じている同業者の所得率につき、原処分庁がこれをゼロとして計算したことには合理性がなく、当該同業者については損失率をそのまま用いて計算することが合理的であるとしたものである。

《要旨》
 原処分庁は、まる1営業を開始した平成17年分ないし平成20年分のいずれの年分についても、本件店舗事業に係る売上原価の額を、同業者13件の収入金額に対する売上原価の額の割合の平均値で除して収入金額を算定し、まる2当該収入金額に同業者13件の収入金額に対する青色申告特別控除前の所得金額の割合(同業者所得率)の平均値を乗じて本件店舗事業に係る所得金額を算定する方法が合理的である旨主張する。
 しかしながら、原処分庁が同業者所得率の算定に当たり採用した同業者のうちの一部の者について、所得金額がマイナス(すなわち、損失の金額が生じている。)であるにもかかわらず、推計の過程においてこれをゼロとしているところ、特にこれらの同業者の所得金額がマイナスとなっていることが、特殊な事情に基づくものであると認めるに足りる証拠はないことから、推計の過程においてはこれらのマイナスの所得金額はそのまま適用するのが合理的である。

《参照条文等》
 所得税法第156条

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原処分庁が用いた資産負債増減法による推計において、推計の基礎とされた資産及び負債の認定に誤りがあるとした事例

平成23年7月8日裁決

《ポイント》
 資産負債増減法による推計において、その納税者と生計を一にする者がある場合には、両者の資産、負債及び処分(消費)した所得を区分せずに推計の基礎として、その納税者の所得の金額を算出する方法を採ることが合理的である。
 この事例は、請求人と生計を一にする親族名義の預金口座であっても、生計を一にしない者に貸していたと認められるものについては、推計の基礎から除外するのが相当としたものである。

《要旨》
 原処分庁は、資産負債増減法を用いた推計においては、請求人と世帯を一にする者がある場合、その世帯員の資産及び負債も推計の基礎に含めて純資産の増減額を算出し、その後に、世帯員の所得金額などの請求人の所得を源泉としない純資産の増加要因について、減算することになる旨主張する。
 しかしながら、請求人と生計を一にする者名義の預貯金のうち、V銀行j支店及びW銀行j支店の子の妻名義の普通預金口座はいずれも同人の兄であるSに貸していたものであり、また、Sは請求人と生計を一にする者ではないと認められることから、これらの口座は推計の基礎から除外し、これらの口座を除く各口座に係る預貯金の全てを推計の基礎とするべきである。よって、これと一致する限度において、原処分に誤りはないが、これに反する部分は、誤りである。

《参照条文等》
 所得税法第156条

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原処分庁が用いた効率法による推計方法には合理性が認められるとした事例

平成24年6月29日裁決

《要旨》
 請求人は、本件J店に係る客単価を16,000円と認定してされた原処分の推計課税は事実誤認に基づく違法なものである旨主張する。
 しかしながら、基本的な料金設定について本件J店より低額であった本件L店における平均客単価が16,116円であることなどからすれば、本件J店の客単価は少なくとも基本料金のうちの最低料金相当額である16,000円を上回ることが容易に推認されるのであり、そうであるとすれば、本件J店の客単価を16,000円であるとしてされた原処分の推計方法は合理性を有すると認められる。

《参照条文等》
 所得税法第156条

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常に外注工賃が存在する業態については、進行年分の外注工賃を考慮した所得率を用いるのが最も合理的な推計方法であるとした事例

平成25年4月22日裁決

《ポイント》
 本事例は、請求人の事業所得の金額を推計により算定する場合において、原処分庁が採用した収入金額に進行年分の算出所得率(総収入金額に占める一般経費差引後の所得金額の割合)を乗じて計算した金額から提示された一部の領収証に基づく外注工賃のみを差し引いて算定するという推計方法は合理性がなく、常に外注工賃が存在すると認められる業態については、進行年分の外注工賃を考慮した所得率を用いるのが最も合理的な推計方法であるとしたものである。

《要旨》
 原処分庁は、請求人が請け負っているソフトウェア等の開発業務(本件業務)について、本件各年分の収入金額に、進行年分の算出所得率(総収入金額に占める一般経費差引後の所得金額の割合)を乗じて計算した金額から、提示された一部の領収証に基づく外注工賃のみを差し引いて事業所得の金額を推計の方法で算定しているところ、本件各年分と進行年分における本件業務の内容には同一性があるとしつつ、請求人が、本件各年分の本件業務について、収支状況を明らかにする記帳をしておらず、提示した領収証以外の外注先及び支払金額等を明らかにしない以上、原処分庁の採用した推計方法は合理性がある旨主張する。
 しかしながら、まる1本件各年分及び進行年分における本件業務の内容には同一性が認められること、まる2本件業務は、その内容、金額及び業務の期間等からみれば、到底請求人個人のみで行うことのできない規模であると認められること、まる3請求人は、本件業務を受注し預金口座に請負代金の振込みがあった都度、その振込金額の9割を超える金額を引き出しているところ、このうち進行年分については、当該引き出した金額が外注工賃の支払に充てられたことが、原処分庁の調査によって裏付けられていること、まる4請求人が本件業務の取引内容等について答述した内容は基本的に信用でき、これによれば、本件業務は、受注後、全てを外注し、外注先に完成品と引換えに外注工賃を支払う取引形態であったと認められることなどを総合すると、本件各年分においても、進行年分と同様に、外注工賃を支払っていたと推認することができる。そうすると、本件業務について、常に外注工賃が存在するという業態についても、本件各年分と進行年分とに同一性があると認められるから、本件各年分の本件業務に係る事業所得の金額の算定に当たっては、進行年分の外注工賃を考慮した所得率(総収入金額に占める一般経費及び外注工賃等差引後の所得金額の割合)を用いるのが、請求人の真実の所得の近似値を算定するに最も合理的な推計方法であるというべきである。

《参照条文等》
 所得税法第156条

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資産負債増減法により事業所得の金額を算定したことには合理性があるとした事例(まる1平成17年分及び平成18年分の所得税の各決定処分及び重加算税の各賦課決定処分並びに平成19年分から平成23年分の所得税の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分、まる2平20.1.1から平22.12.31の各課税期間の消費税及び地方消費税の各更正処分並びに無申告加算税の各賦課決定処分・まる1一部取消し、まる2棄却・平成26年2月27日裁決)

平成26年2月27日裁決

《要旨》
 請求人は、原処分庁が請求人の事業所得の金額を算定するに当たって採用した資産負債増減法は、推計の基礎事実が正確に把握されていないことなどから、その推計方法には合理性がない旨主張する。
 しかしながら、原処分庁が認定した資産負債増減法における純資産の増加額、加算調整項目及び減算調整項目については、一部の加算調整項目及び減算調整項目の内容に誤りが認められるものの、これらはいずれも是正可能なものであって、その他の内容及び金額はいずれも相当と認められ、一部の誤りを是正した後の純資産の増加額、加算調整項目及び減算調整項目により算出された所得金額は、正確性が担保された計算要素に基づき算出された所得金額ということができるから、原処分庁が採用した推計方法には合理性がある。

《参照条文等》
 所得税法第156条

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請求人の事業所得の金額等を類似同業者の平均売上原価率を用いて推計する方法には合理性があるとした事例(まる1平成21年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分、まる2平成21年分から平成23年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分、まる3平21.1.1から平21.12.31の課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分、まる4平22.1.1から平23.12.31の各課税期間の消費税及び地方消費税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分・まる1まる2まる4棄却、まる3一部取消し・平成26年6月18日裁決)

平成26年6月18日裁決

《ポイント》
 本事例は、原処分庁が請求人の事業所得の金額等を類似同業者の平均売上原価率等を用いて推計するに当たり、類似同業者を請求人の売上原価の0.5倍以上2倍以下であるなど、機械的に抽出しており、その抽出方法には合理性があると認められるものの、原処分庁が選定した類似同業者のうちに、立地条件等からみて必ずしも請求人と業態が類似するとは認められない者が含まれていることから、この者を類似同業者から除外して、原処分庁が採用した推計の方法により請求人の事業所得の金額等を算定することが相当であるとしたものである。

《要旨》
 原処分庁は、請求人と事業内容・規模等が類似すると認められる青色申告者(平成21年分7件、平成22年分4件、平成23年分5件)の平均的な売上原価率(総収入金額に対する売上原価の割合)に基づいて、請求人の事業所得の金額及び消費税の課税標準額を推計の方法により算定しており、原処分庁の推計の方法には合理性がある旨主張する。
 原処分庁は、請求人が営む店舗の所在地を管轄する税務署管内に事業所を有し、同税務署長に対し青色申告書を提出する者で、請求人と業種、業態及び事業内容が類似し、かつ、売上原価が請求人の売上原価の0.5倍以上2倍以下であるなど事業規模が類似する者を、類似同業者として機械的に抽出しており、このような抽出の方法については合理性があると認められるものの、原処分庁が選定した類似同業者のうち平成21年分の1件については、立地条件等からみて必ずしも請求人と業態が類似するとは認められないから、この者を類似同業者から除外することが相当である。

《参照条文等》
 所得税法第156条

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請求人の事業所得の金額等を類似同業者の平均水道光熱費率を用いて推計する方法に合理性があるとした事例(まる1平成21年分以後の所得税の青色申告の承認の取消処分、まる2平成22年分及び平成23年分の所得税の各更正処分並びに平19.1.1から平20.12.31の各課税期間の消費税及び地方消費税の各決定処分及び無申告加算税の各賦課決定処分・まる1棄却、まる2全部取消し・平成26年7月4日裁決)

平成26年7月4日

《ポイント》
 本事例は、請求人の事業所得の金額等を類似同業者の平均水道光熱費率を用いて推計する方法について、合理性があると認められるものの、推計の基礎とする水道光熱費の額の計算に当たり、原処分庁の認定誤りがあったため、これを是正し、類似同業者を選定し直した上で、改めて平均水道光熱費及び平均所得率を算出し、原処分庁が採用した推計の方法により請求人の事業所得の金額等を算定することが相当であるとしたものである。

《要旨》
 請求人は、原処分庁が採用した類似同業者の水道光熱費率に基づく推計の方法について、類似同業者間の水道光熱費率に較差があること、また、請求人が経営する民宿(本件民宿)が所在する地区の水道料金は他の地区に比べ割高であるなどの特殊事情があるにもかかわらず、これが考慮されていないことから、原処分庁の推計の方法には合理性がない旨主張する。
 しかしながら、類似同業者の水道光熱費率の平均値により推計する場合、その平均値を算出することによって類似同業者間の水道光熱費率に開差があったとしても、各類似同業者の個別性が平均化され、推計の合理性が高められるのであるから、多少の較差があるからといって、原処分庁の推計方法に合理性がないというのは相当ではなく、本件において、これを不合理ならしめる程度の較差は見当たらない。また、仮に水道料金が他の地区に比べ割高であったとしても、基礎数値である水道光熱費の額に占める水道料金の額の割合は、せいぜい10%程度にすぎないことからすれば、水道光熱費の額を基礎とする推計方法を不合理ならしめる程度に顕著な事情とはいえない。したがって、原処分庁が採用した推計の方法には、合理性があると認められる。そして、推計の基礎とする水道光熱費の額の計算に当たり、本件民宿に係る水道光熱費の額から家事費相当額を控除する計算方法は、当審判所においても相当と認められる。しかしながら、家事費相当額の計算上、請求人世帯の人員について、原処分庁の認定誤りが存するため、これを是正した上で、原処分庁が設定した抽出基準に従って、改めて類似同業者を抽出すると、誤って類似同業者に選定された者及び選定漏れの類似同業者が認められたことから、誤って類似同業者に選定された者を除外し、選定漏れの類似同業者を採用し、改めて平均水道光熱費及び平均所得率を算出して、事業所得の金額を推計することが相当である。

《参照条文等》
 所得税法第156条

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原処分庁が推計の基礎とした売上原価の額に、接待交際費及び家事費などの額が含まれていることから、これらの金額を補正すべきとした事例(1平成23年分及び平成24年分の所得税の各更正処分及び無申告加算税の各賦課決定処分、2平24.1.1から平24.12.31の課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分並びに無申告加算税の賦課決定処分・1一部取消し、2棄却・平成28年3月10日裁決)

平成28年3月10日裁決

《ポイント》
 本事例は、推計の基礎数値の正確性を期すためには、同業者比率法による推計の基礎とした売上原価の額が合理的な根拠に基づいて算定される必要があるとしたものである。

《要旨》
 売上原価の額を推計の基礎として同業者比率法により事業所得の金額を算定する場合、売上原価の額が合理的な根拠に基づいて算定される必要があるところ、原処分庁は、各年分の売上原価の額を、請求人から提示された領収書等により仕入金額を計算し、売上原価の額を算定している。当審判所においても、その算定方法自体は相当であると認められるが、原処分庁が算定した各年分の売上原価の額には、接待交際費及び家事費などとともに、業種の異なる店舗の売上原価が含まれていることなどから、これらについて必要な補正等を加えた後の金額を推計の基礎となる売上原価の額とするのが相当である。

《参照条文等》
 所得税法第156条

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原処分庁が選定した類似同業者の中に選定基準に該当しない事業者が含まれていたと認定した事例(平成21年分から平成24年分までの所得税の各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分、平成22年1月1日から平成22年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の決定処分並びに無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分、平成23年1月1日から平成23年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分、平成24年1月1日から平成24年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分並びに重加算税の賦課決定処分・一部取消し、棄却・平成28年9月8日裁決)

平成28年9月8日裁決

《要旨》
 請求人は、請求人の自宅に存したノート(本件ノート)は請求人の事業に係る売上金額が記載されたものではないから、原処分庁が本件ノートを基に請求人の事業所得の金額等を推計の方法により算定したことには合理性がない旨主張する。
 しかしながら、本件ノートに記載された売掛金の額は、請求書の金額及び預金口座に振り込まれた金額と9割以上が一致していることからすると、本件ノートには、請求人の事業に係る売上金額を記載したものとして一定の信ぴょう性があると認められる。加えて、原処分庁は、請求人が営む事業と業種、業態、事業内容、規模等が類似すると認められる青色申告者の平均特前所得率(総収入金額に対する青色申告特典控除前の事業所得の金額の割合の平均値)に基づいて、請求人の事業所得の金額を推計の方法により算定しているところ、原処分庁が類似同業者を機械的に抽出すべく設定した選定基準についてみると、選定対象とした事業者は、1請求人が営む店舗の所在地を管轄する税務署及び同税務署と隣接する税務署の管轄内に納税地及び事業所を有する者に限定し、地域差による収益等のかい離を回避していること、2請求人が営む事業の営業形態との同一性に配慮が認められ、売上金額が請求人の売上金額の0.5倍以上2倍以下であり、複数店舗経営及び兼業ではなく、青色事業専従者がいないなど事業規模等の類似性を十分に考慮していること、3年中途の開廃業がない青色申告者で調査中又は不服申立て中でない者に限定することによって、収入金額等を把握する上で障害となる不安定要素を有する者が除外されるとともに、同業者に係る資料及び金額の正確性が担保されていることから、原処分庁による推計の方法自体は相当であると認められる。ただし、原処分庁が選定した類似同業者の中には、原処分庁が設けた選定基準に該当しない事業者が一部含まれていることから、これらを類似同業者から除外した上で平均特前所得率を算定することが相当である。

《参照条文等》
 所得税法第156条

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原処分庁が用いた同業者率による推計方法には合理性が認められるとした事例(1平成24年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分、2平成25年分及び平成26年分の所得税及び復興特別所得税の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分、3平成22年1月1日から平成23年12月31日及び平成25年1月1日から平成26年12月31日の各課税期間の消費税及び地方消費税の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分・12棄却、3一部取消し・平成29年6月22日裁決)

平成29年6月22日裁決

《ポイント》
 本事例は、原処分庁が請求人の事業所得の金額等を類似同業者の平均必要経費率を用いて推計するに当たり、類似同業者を請求人の総収入金額の0.5倍以上2倍以下と設定するなどして、機械的に抽出しており、その抽出方法には合理性があると認められ、原処分庁が採用した推計の方法により請求人の事業所得の金額等を算定することが相当であるとしたものである。

《要旨》
 請求人は、原処分庁の推計の方法では、請求人のように多額の経費や設備投資等の特別な支出がある者を対象とする場合には、事業所得の金額が過大に計算されてしまい、真実の事業所得の金額を大きく上回る旨主張する。
 しかしながら、請求人が特殊事情として主張する諸事情は、いずれも適切な抽出基準及び抽出方法により選定された類似同業者の平均必要経費率を採用することにより、その平均値に吸収され捨象されるべき事情に当たるというべきであり、当審判所の調査の結果によっても、当審判所が選定した類似同業者の平均必要経費率を請求人に適用することの合理性を否定すべき特段の事情は認められない。
 ただし、消費税の計算において、平成26年3月31日以前の課税資産の譲渡等と認定すべきものを、同年4月1日以降の課税資産の譲渡等と認定したことから、消費税率の適用誤りがあり、消費税等の更正処分が一部取消しとなった。

《参照条文等》
 所得税法第156条

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推計による所得税等の課税処分について、原処分庁による推計にその必要性が認められるとした事例(1平成25年分の所得税及び復興特別所得税の決定処分並びに無申告加算税の賦課決定処分、2平成26年分及び平成27年分の所得税及び復興特別所得税の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分、3平成23年1月1日から平成23年12月31日まで、平成26年1月1日から平成26年12月31日まで及び平成27年1月1日から平成27年12月31日までの各課税期間の消費税及び地方消費税の各決定処分並びに無申告加算税の各賦課決定処分・棄却・平成30年6月8日裁決)

平成30年6月8日裁決

《ポイント》
 本事例は、原処分庁が推計により請求人の所得金額等を算定して課税したところ、原処分庁による推計にはその必要性が認められるほか、その推計方法、総収入金額の正確性、類似同業者の抽出方法の各点においてその合理性が認められるとしたものである。

《要旨》
 請求人は、原処分庁による推計にその必要性がない旨主張するが、調査経緯に関する事実によれば、原処分庁としては請求人の所得金額を実額により計算することは不可能又は著しく困難というべきであり、請求人の所得を推計により算定する必要性があると認められる。なお、原処分庁による推計は、その推計方法、総収入金額の正確性、類似同業者の抽出方法の各点においてその合理性が認められる。
 また、請求人は、請求人の一部の取引先(本件取引先)との間の取引は出来高払の取引であるから、原処分庁が当該取引を請負であるとしてその取引額(収入金額)を認定したことは誤りである旨主張する。
 しかしながら、本件取引先から請求人が請け負った工事(本件請負工事)は、受注した工事現場ごとに契約金額が決められており、毎月分の出来高に応じて支払がされているもののこれは飽くまで内金としての支払にすぎないから、その対価を収入に計上すべき時期は、目的物の全部を完成して相手方に引渡した日又はその約した役務の提供を完了した日となる。したがって、原処分庁が認定した総収入金額にも誤りはない。

《参照条文等》
 所得税法第156条
 所得税法第36条第1項、所得税基本通達36−8

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原処分庁が選定した類似同業者の中に選定基準に該当しない事業者が含まれていたと認定した事例(1平成25年分及び平成26年分の所得税及び復興特別所得税の各更正処分、2平成25年分の所得税及び復興特別所得税の過少申告加算税の賦課決定処分、3平成27年分の所得税及び復興特別所得税の更正処分、4平成25年1月1日から平成25年12月31日まで及び平成26年1月1日から平成26年12月31日までの各課税期間の消費税及び地方消費税の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分、5平成27年1月1日から平成27年12月31日までの課税期間の消費税及び地方消費税の決定処分並びに無申告加算税の賦課決定処分・1一部取消し、23全部取消し、45棄却・平成30年4月19日裁決)

平成30年4月19日裁決

《ポイント》
 本事例は、原処分庁が請求人の事業所得の金額等を同業者比率方式に基づき推計により算定したものの、採用した同業者の中に抽出基準に該当しない者が含まれていたことから、原処分庁が採用した同業者の一部を採用せず、所得の金額の一部を取り消したものである。

《要旨》
 請求人は、帳簿書類等を提示しなかったのは調査環境を整えようとしなかった原処分庁所属の調査担当職員(本件調査担当職員)に責任があること等から、事業所得の金額の計算上、推計の必要性及び合理性は認められない旨主張する。
 しかしながら、本件調査担当職員は、請求人に対し、少なくとも3回にわたって、帳簿書類等の提示又は提示の意思確認をしたものの、請求人はいずれの求めに対しても、調査理由を説明しないことなどを理由に、帳簿書類等を提示しなかったのであり、これらの事実によれば、原処分庁は、やむを得ず、推計の方法により請求人の所得金額を算出したことが認められることから、請求人の事業所得の金額の計算上、推計の必要性があったものと認められる。また、原処分庁は、請求人の所得金額を同業者比率方式により算定し、採用した同業者(本件同業者)の抽出基準及び抽出方法自体は、一応の合理性を有するものと認められる。ただし、本件同業者の中に抽出基準に該当しない者が含まれていたことから、これらの者を本件同業者から除外した後の同業者を、推計課税に用いるべき同業者とした結果、所得税等の更正処分が一部取消しとなった。

《参照条文等》
 所得税法第156条

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原処分庁による推計計算の過程で、その採用した類似同業者の抽出基準に該当しない者が類似同業者として選定されていたため、更正処分の一部を取り消した事例(1平成24年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分、2平成25年分ないし平成27年分の所得税及び復興特別所得税の各更正処分並びに過少申告加算税の各賦課決定処分、3平成24年課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分並びに無申告加算税の賦課決定処分、4平成25年課税期間の消費税及び地方消費税の更正処分並びに過少申告加算税の賦課決定処分、5平成26年課税期間の消費税及び地方消費税の決定処分並びに無申告加算税の賦課決定処分(再調査決定によりいずれもその一部が取り消された後のもの)、6平成27年課税期間の消費税及び地方消費税の決定処分並びに無申告加算税の賦課決定処分・平成26年分の所得税及び特別復興所得税の更正処分は一部取消し、その他は棄却・平成30年12月13日裁決)

平成30年12月13日裁決

《ポイント》
 本事例は、原処分庁が請求人の所得金額を推計計算する過程で採用した類似同業者抽出基準は、業種、業態の類似性、事業規模の近似性等の各点で合理性を有しており、その平均所得率を算定する資料の正確性も担保され、類似同業者抽出件数も同業者の個別性を平均化するに足りるものであるから、原処分庁による推計には一応の合理性があると認められるものの、その選定した類似同業者のうちに上記の類似同業者抽出基準に該当しない者が含まれていたたことから、これを除いたところで所得率の平均値を算定し、当該平均所得率をもって請求人の所得金額を算定するのが相当であるとしたものである。

《要旨》
 請求人は、原処分庁による税務調査に可能な限り対応しており、また、必要経費に係る集計表及び領収書により必要経費の額を算定することもできるから、本件に推計の必要性はなかった旨、また、原処分庁による推計は、請求人と業態の異なる者を類似同業者とした点で合理性を欠く旨、さらに、調査の際に帳簿の提示を拒否した事実はなく、帳簿を保存していたのであるから、消費税については仕入税額控除の規定が適用されるべきである旨主張する。
 しかしながら、本件における調査の経緯からすれば、原処分庁は、請求人の帳簿不提示により、その事業所得の金額を実額で算定することができす、また、請求人の提示した集計表に信用性を認めることはできないから、本件には推計の必要性があったと認めるのが相当である。また、原処分庁がその推計の際に採用した類似同業者抽出基準は、業種、業態の類似性、事業規模の近似性等の各点で合理性を有しており、平均所得率を算定する資料の正確性も担保され、類似同業者抽出件数も同業者の個別性を平均化するに足りるものであるから、原処分庁による推計には一応の合理性があると認められる。ただし、原処分庁が類似同業者として選定した者のうちに所定の抽出基準に該当しない者が含まれていたため、これを除いた所得率の平均値をもって請求人の所得金額を算定するのが相当である。
 さらに、本件における調査の経緯からすると、請求人は適時に提示することが可能なように態勢を整えて帳簿及び請求書等を保存していたものということはできないから、請求人は、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項に規定する仕入税額控除の適用を受けることはできない。

《参照条文等》
 所得税法第156条
 消費税法第30条第1項、第7項

《参考判決・裁決》
 最高裁平成16年12月16日第一小法廷判決(民集58巻9号2458頁)

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請求人主張の推計方法が認められず、原処分庁が採用した推計方法は、一応の合理性があるとした事例

平成31年4月24日裁決

《ポイント》
 本事例は、原処分庁が採用した推計方法について、請求人が自身の主張する推計方法の方が真実の所得金額に近似するとの主張をしたものの認められず、原処分庁の推計方法は、一応の合理性を有するものと認めたものである。

《要旨》
 請求人は、昼営業に係る注文伝票1枚当たりの単価(昼営業伝票単価)に注文伝票の購入枚数から客の注文等を記載する以外に使用した注文伝票の枚数(伝票ロス分)を控除した枚数を乗じて売上金額を算出するという原処分庁が採用した推計方法には合理性がない旨主張する。
 しかしながら、1昼営業伝票単価を推計の基礎数値に用いることは、請求人の事業専従者が主に昼営業の売上げを計上しないものとして昼営業に係る注文伝票の一部をレジ入力せず破棄していたこと及び昼営業に係る来客者数が夜営業に係る来客者数を上回る請求人の事業の実態を反映するものであること、2昼営業伝票単価及び注文伝票の購入枚数は、いずれも当該事業における正常な業務の遂行のために作成された資料から正確に把握されること、3請求人の客への飲食物の提供方法である店内飲食、持帰り及び弁当販売の3つの形態のいずれについても必ず注文伝票が作成されており、注文伝票の使用枚数と売上金額とは高い相関関係があると認められること等から、原処分庁が採用した推計方法は、一応の合理性を有する。
 また、請求人は、原処分庁が採用した推計方法よりも、おしぼりのレンタル本数及び弁当箱の購入個数から客に提供する以外の用途に使用する数量を控除した数量に、客単価を乗じて売上金額を算出するという推計方法の方が真実の所得金額に近似する旨主張する。
 しかしながら、1請求人の主張する推計方法は、夜営業に係る来客者数よりも昼営業に係る来客者数の方が多いという請求人の事業の実態を反映するものではなく、2おしぼりのレンタル本数及び弁当箱の購入数量について、客に提供する以外の用途に使用する数量を認定するに足る具体的な証拠はなく見積りにより算出していることに加え、おしぼりの調理使用分について使用方法が変更されていることからすると、数値の正確性・連続性に欠けるおしぼりのレンタル本数及び弁当箱の購入数量を推計の基礎とすることはできないから、請求人の主張する推計方法の方が真実の所得金額に近似するということはできない。
 なお、審判所の伝票ロス分の認定等に伴い、原処分の一部を取り消した。

《参照条文等》
 所得税法第156条

《参考判決・裁決》
 名古屋地裁平成16年11月25日判決(税資254号順号9833)

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請求人の事業所得の金額を推計するに当たり、原処分庁が採用した類似同業者の抽出基準及び抽出方法に一応の合理性があるとした事例

令和3年3月4日裁決

《ポイント》
 本事例は、推計の基礎数値である収入金額の異動により、審判所の認定額が原処分額を下回ったため、原処分の一部を取り消したものである。

《要旨》
 請求人は、請求人の事業は自動車整備業のみで、自動車販売は附帯的に行っているだけであるから、原処分庁が、自動車整備業及び自動車販売業を営む者を類似同業者の抽出基準としていることには合理性がない旨主張する。
 しかしながら、請求人は、自動車整備業だけでなく自動車の販売も行っていると認められる以上、原処分庁が、類似同業者の抽出基準において、自動車整備業及び自動車販売業を営む者を請求人の類似同業者としたことは相当である。なお、請求人の収入金額の異動により、審判所の認定額が原処分額を下回ったため、原処分の一部を取り消した。

《参照条文等》
 所得税法第156条

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推計による所得税等の課税処分について、原処分庁による推計の必要性が認められ、また、推計の合理性があるとした事例

令和3年6月23日裁決

《ポイント》
 本事例は、原処分庁の同業者率による推計方法について、1推計基礎の正確性、2推計方法の最適性及び3推計方法の客観性があり、推計の合理性があるとしたが、類似同業者の一部の減価償却費や必要経費の算定における計算誤りがあったため、更正処分の一部を取り消すのが相当であるとした事例である。

《要旨》
 請求人は、請求人の総勘定元帳により、請求人の所得金額を実額で計算することができ、推計の必要性がない旨、また、原処分庁による推計方法は合理性がない旨主張する。
 しかしながら、請求人が提出した資料では実額で計算することはできず、本件には推計の必要性があったと認めるのが相当である。
 また、推計方法については、原処分庁は、請求人の各年分の総収入金額に類似同業者の平均必要経費率(同業者比率)を用いる方法により請求人の事業所得の金額を算出しているところ、1同業者比率による推計方法については、一般に、業種・業態が類似する同業者にあっては、特段の事情がない限り、経験則上、同程度の同収入金額に対し、同程度の所得が得られると考えられており、請求人の営む事業の場合であっても例外でなく、本件において請求人に特段の事情があるとは認められないこと、2推計の基礎となる総収入金額は正確に把握されていること、3抽出基準に合理性がある上、類似同業者の抽出過程において課税庁の恣意や思惑が介在していないこと、及び4抽出件数も類似同業者の平均値を求める上で合理的であることが認められる。したがって、原処分庁による推計については、抽出した類似同業者の一部の者の減価償却費や必要経費の算定における計算誤りの部分を除いて、合理性があると判断するのが相当である。

《参照条文等》
 所得税法第156条

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原処分庁の平均所得率の計算過程において、損失の金額が生じていた類似同業者の所得率はマイナス値で計算すべきとされた事例

令和3年6月23日裁決

《要旨》
 請求人は、原処分庁の所得金額の推計の算出について、1原処分庁の算出基準においては、青色申告の承認を受けた者の確定申告が適切になされたものであって、かつ、請求人の確定申告と比較しうる理由の根拠が示されていないこと、2原処分庁が請求人の所得金額の推計に用いた請求人と業種・業態が類似し事業規模が同程度であると判断した同業者(本件類似同業者)の業態が全く不明であり、原処分庁が所得率の高い同業者だけを選んで推計の基礎に用いた可能性も否定できないこと、及び3本件類似同業者の本件各年分の平均所得率は年分によってかなりの開差があることから、推計の合理性があるとはいえない旨主張する。
 しかしながら、原処分庁は、本件類似同業者を抽出するにあたり、業種・業態の類似性、個人又は法人の別、事業所の所在地の接近性、資料の正確性並びに事業規模の類似性等に係る基準を設けてこれらの条件に全て該当する者を抽出したのであるから、当該抽出基準は合理性を有するものであり、また、同業者の抽出過程に原処分庁の恣意が介在したとの事実は認められない。そして、平均所得率の算出に使用した資料は、いずれも帳簿書類等が整っている青色申告者の決算書であり、その信頼性ないし正確性は高く、さらに本件類似同業者の件数も本件類似同業者の個別性を平均化するに足るということができる。したがって、本件類似同業者と請求人の間には類似性があり、原処分庁の本件類似同業者の抽出基準及び抽出方法は合理性を有するものであると認められる。ただし、原処分庁の平均所得率の計算過程において、本件類似同業者のうち1名に損失の金額が生じていたにもかかわらず、その者の所得率を0.00%で計算しているが、その者の所得率を0.00%とすべき特殊な事情は認められないことから、当該所得率は損失の金額で算出したマイナス値で計算すべきである。

《参照条文等》
 所得税法第156条

《参考判決・裁決》
 平成30年6月8日裁決(裁決事例集No.111)

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原処分庁が用いた資産負債増減法による事業所得の推計方法において、純資産の増加額の算定に際し基礎とした資産の認定に一部誤りがあるとした事例

令和3年8月4日裁決

《ポイント》
 本事例は、原処分庁が用いた資産負債増減法による推計において、請求人名義の預金口座への入金額の一部は、子名義の預金口座から引き出された金銭を原資とするものであり、請求人の事業所得を原資とするものではないから、純資産の増加額とは認められないとした事例である。

《要旨》
 原処分庁は、原処分庁が請求人の事業所得を算定するに当たって採用した資産負債増減法において、子名義の普通預金口座(本件普通預金口座)から引き出された金銭によって請求人名義の定期預金口座が開設されたとの事実を裏付ける証拠はないことから、減算調整項目(事業外所得)として減算すべき金額はない旨主張する。
 しかしながら、本件普通預金口座から合計2,000,000円が引き出された翌日に同額が請求人名義の定期預金口座に入金されたこと、本件普通預金口座に係る通帳等を同居人が管理していること、本件普通預金口座から引き出された2,000,000円が請求人名義の定期預金口座への入金以外に充てられたことをうかがわせる事情がないことなどからすれば、請求人名義の定期預金口座に入金された金銭は本件普通預金口座から引き出された金銭を原資とするものであり、事業所得を原資とするものとはいえない。

《参照条文等》
 所得税法第156条

《参考判決・裁決》
 平成23年7月8日裁決(裁決事例集84)
 平成26年2月27日裁決(裁決事例集94)

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