所得計算の特例

認めなかった事例

  1. 交換の特例
  2. 低額譲渡
  3. 譲渡代金の回収不能
  4. 保証債務の履行
    1. 保証債務の存否
    2. 保証債務の履行のための譲渡
      1. 認めた事例
      2. 認めなかった事例(8件)
    3. 求償権の行使不能
    4. 対象資産の範囲
    5. 所得金額の計算
    6. 申告手続
  5. 事業廃止の場合の必要経費

土地を譲渡しその代金を債務保証をした会社に提供したことにつき、当該譲渡は保証債務の履行のためのものとは認められないとした事例

裁決事例集 No.28 - 116頁

 請求人は、自己が代表取締役となっている会社の借入金等につき債務保証をしていたところ、同社の業績が悪化し、借入金等の返済が困難となったので、同人所有の土地を譲渡し、その代金のほとんどを同社に提供し、同社はその資金で債務の弁済に充てたものであるから、これは実質的に保証債務を履行するための譲渡に該当すると主張するが、弁済は期限前に行われており、債権者から請求人に保証債務の履行の請求はなく、債権者は請求人から返済を受けたという認識がないので、請求人は譲渡代金を同社に単に貸し付けたにすぎず、本件譲渡は、保証債務の履行のための資産の譲渡とは認められない。

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保証債務の履行をC銀行からの借入れで行い、その後本件資産を譲渡した後にD銀行から借入れを行ってC銀行に対する借入金を返済した上、分割受領した本件資産の譲渡代金でD銀行に対する借入金を分割返済した場合には、所得税法第64条第2項の適用がないとした事例

裁決事例集 No.39 - 133頁

 所得税法第64条第2項の規定が適用されるためには、資産の譲渡と保証債務の履行との間に強い因果関係が必要であるというべきであって、保証債務の履行と資産の譲渡とが、たまたま時期を同じくして行われたとしても、保証債務の履行が保証人の譲渡代金以外の資金、信用によって行われたときは、同条項の適用がないものと解すべきであり、ただ、保証債務の履行を求められたため、やむを得ず譲渡代金を受領するまでのつなぎ資金として、一時的に借入金でその保証債務を履行しておき、その後短期間のうちに資産を譲渡して、その譲渡代金をもって遅滞なくその借入金を返済するなど、資産の譲渡と保証債務の履行との間に強い因果関係があると認められる場合にも同条項の適用があるものと解する。
 本件については、分割受領した譲渡代金の流れ等からみて、資産を譲渡した後に借り入れた資金は本件土地の譲渡代金を受領するまでの一時的なつなぎ資金であるとは認められず、土地の譲渡と保証債務の履行との間に強い因果関係があるとは認められないから、所得税法第64条第2項の適用はない。

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物上保証人である請求人が債務額を代位弁済した場合の所得税法第64条第2項の規定の適用上、物上保証人である請求人は代位弁済額のうち自己の負担割合を超える部分について連帯保証人に対して求償権を取得し、連帯保証人のうち償還をなす資力のないものがある場合においても、その償還資力がない者の負担部分も他の連帯保証人の間で分割負担されるものとして、求償権行使可能額を計算すべきであるとした事例

裁決事例集 No.41 - 160頁

 物上保証人であった請求人は、その所有する土地を譲渡し、その譲渡代金をもって保証債務額35,392,179円を代位弁済したとして、その弁済額全額について所得税法第64条“保証債務の履行のための譲渡の場合の課税の特例”第2項の規定を適用すべきであると主張するが、本件金銭消費貸借には、物上保証人のほかに連帯保証人が三名存し、物上保証人である請求人と連帯保証人との間には保証に際しての負担部分の特約が存在しないことから、物上保証人・連帯保証人相互間においてはその頭数に応じて平等に負担することになり、請求人は代位弁済額のうち自己の負担割合である4分の1に相当する部分を超える部分について連帯保証人に対して求償権を取得し、そして、連帯保証人のうちに償還をなす資力のない者がある場合においても、その償還資力がない者の負担部分も他の連帯保証人の間で分割負担することとされているから、結局、請求人の求償権行使可能額は、代位弁済額35,392,179円のうち自己の負担部分である4分の1に相当する額8,848,044円を控除した残額26,544,135円とするのが相当であり、同金額については保証債務の履行のための譲渡の場合の課税の特例の規定の適用はない。

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譲渡代金によって弁済したのは自己の債務であって、保証債務ではないとして、保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の譲渡所得の特例の適用を認めなかった事例

裁決事例集 No.60 - 315頁

 請求人は、本件土地の譲渡代金で返済した借入金について、主たる債務者名義は請求人となっているが、借入金を費消したのも、弁済していたのも請求人の長男であり、実質的な主たる債務者は長男であるから、本件土地の譲渡は保証債務を履行するために行われたものであると主張するが、[1]金銭消費貸借証書上、主たる債務者は請求人となっていること、[2]請求人の長男自身が主たる債務者となることも可能であったのに、そうしていないこと、[3]債権者は請求人に対して貸し付けたものであると答述していることから、この借入金は、請求人が主たる債務者であると認められる。したがって、本件土地の譲渡代金から返済したのは自己の債務であって、保証債務の履行による弁済ではないので、所得税法64条2項の規定を適用することはできない。

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本件各土地の譲渡代金は主債務者に運転資金として貸し付けられ、主債務者が当該資金をもって本件各債務を弁済したものと認められるから、本件各土地の譲渡所得につき、所得税法第64条第2項に規定する保証債務の特例を適用することはできないとした事例

裁決事例集 No.67 - 383頁

 請求人は、本件各土地の譲渡代金は、主たる債務者を経由して本件各債務の弁済に充てられているが、実質的には、請求人が連帯保証人として本件各連帯保証債務を弁済したものであり、本件各土地の譲渡は保証債務の特例の適用要件を備えていると主張するが、[1]請求人は、主たる債務者に対して本件各弁済の額を超える資金を提供していること、[2]当該超える金額について、主たる債務者は、人件費、役員給与等の支払に充てていること、[3]債権者から請求人に保証債務の履行の請求はなかったことなど、本件各弁済の形態等からすると、請求人は、譲渡代金の一部を主たる債務者に貸し付け、主たる債務者が当該資金をもって本件各債務を弁済したとみるのが相当であり、本件各弁済を請求人による保証債務の履行と評価することはできない。

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1債務保証をした事実はないこと及び2譲渡代金が借入金の返済に充てられていないことから、本件土地の譲渡につき、所得税法第64条第2項に規定する保証債務の特例を適用することはできないとした事例

裁決事例集 No.77 - 111頁

  1.  請求人は、C銀行等に支払った1,200万円は主たる債務者をBとする保証債務の履行である旨主張する。しかしながら、請求人は、Q市物件にC銀行等のために抵当権が設定されていることを認識しながらこれを買い受け、売主であるAらに本来支払うべき売買代金1,200万円を、抵当権消滅請求のために、C銀行等に対して支払ったにすぎないから、請求人が、AらのC銀行等に対する債務の保証をした事実はない。
  2.  また、請求人は、本件土地を譲渡し、その譲渡代金で保証債務を履行するつもりであったが、買い手が見つからず直ちに譲渡することができなかったため、やむを得ず本件各借入金と自己資金により保証債務を履行したのであるから、本件譲渡は実質的に保証債務を履行するためのものである旨主張する。
     しかしながら、所得税法第64条第2項の規定による特例を適用するためには、1債務の保証をしたこと、2保証債務の履行のために資産を譲渡したこと、3保証債務を履行したこと及び4履行に伴う求償権の全部又は一部が行使することができなくなったことの実体的要件が必要であると解される。請求人は、BのF社に対する債務を連帯保証しているから、F社の債権譲渡先であるG社に対する請求人による支払は、上記の実体的要件の1及び3を充足する。しかし、請求人は、本件各借入金のうちの550万円及び自己資金によりG社に対する代位弁済をしており、本件譲渡は上記代位弁済後になされているから、本件譲渡代金が直接保証債務の履行に充てられたわけではない。したがって、上記の実体的要件の2を充足するというためには、本件譲渡が、実質的にみて保証債務の履行のための資産の譲渡と認められることが必要である。そうすると、本件各借入金のうち550万円は本件保証債務の履行に充てられたものと認められるが、本件譲渡は、本件保証債務の履行から3年以上経過してから行われている上、本件各借入金の返済は、自己資金により行われており、本件譲渡代金が本件各借入金の返済に充てられた事実は認められない。
     以上によれば、本件譲渡は、実質的に保証債務を履行するための資産の譲渡であったとはいえず、本件譲渡代金と本件保証債務の履行との間に因果関係は認められないから、上記の実体的要件の2を充足しない。したがって、本件譲渡は「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合」には該当しない。

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保証債務の特例を適用するに当たり、土地の譲渡代金が主債務者を経由して債務の返済に充てられている場合など、形式的には保証債務の履行といえない場合は、実質的にみて保証債務の履行であることが客観的に明らかであることが必要であるとした事例

平成23年2月2日裁決

《ポイント》
 所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となつた場合等の所得計算の特例》第2項に規定する保証債務の特例を適用するためには、原則として、その譲渡代金をもって主たる債務者の債務の返済に充てられることが必要であるところ、この事例は、請求人が譲渡した土地の譲渡代金が主債務者の口座に入金された後、同口座から金融機関に返済されるなど、形式的には保証債務の履行とはいえない場合において、実質的にみて保証債務の履行といえるか否かを、土地譲渡の経緯、譲渡代金の流れ、金融機関の処理状況等から判断したものである。

《要旨》
 請求人は、物上保証していた土地の譲渡代金をいったん主債務者の口座に入金したが、その後直ちに当該口座から同額が金融機関に返済されているから、当該返済は実質的に請求人が保証債務を履行したものである旨主張する。
 しかしながら、主債務者の口座へ入金された資金は、請求人からの借入金と経理処理された上、主債務者から金融機関へ返済していることから、当該返済は形式的には請求人による保証債務の履行ではなく、これが実質的にみて保証債務の履行であるといえるためには、保証債務の履行であることが客観的に明らかであることが必要であると解されるところ、土地譲渡の経緯、譲渡代金の流れ、金融機関の処理状況等からみて、請求人が保証債務を履行したことが客観的に明らかであったとは認められず、また、主債務者の資力、債務の返済状況等からすると、返済時点において保証債務を履行する必要性が客観的に明らかであったとも認めることができない。
 したがって、当該返済は、形式的・実質的ともに請求人による保証債務の履行であるとは認められない。

《参照条文等》
 所得税法第64条、第152条

《参考判例・裁決》
 平成16年5月17日裁決(裁決事例集No.67・383頁)

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他人の滞納税額のために不動産が差押えをされ、当該不動産の売却代金がその滞納税額の支払に充てられたとしても、保証契約を締結し、又は抵当権を設定したものではないから、所得税法第64条第2項の適用はないとすることが相当であるとした事例(まる1平成23年分の所得税の更正の請求に対してされた更正をすべき理由がない旨の通知処分、まる2平成23年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分・まる1棄却、まる2一部取消し・平成26年2月4日裁決)

平成26年2月4日裁決

《ポイント》
 本事例は、真の所有者が不動産の名義をあえて他人に移転したことから、その他人の滞納税額のために当該不動産が差押えをされ、当該不動産の売却代金が滞納税額の支払に充てられたとしても、虚偽の権利の外観を自ら作出したことが原因であり、民法第94条《虚偽表示》第2項の類推適用により善意の第三者に対して対抗できなくなった結果にすぎないこと等から、所得税法第64条第2項の適用はないと判断したものである。

《要旨》
 請求人は、相続税の延納申請に係る担保として提供した土地(本件各担保土地)について、K国税局長がした差押登記は、請求人の知人が主宰するJ社の租税債権を回収するために、本件各担保土地の所有者である請求人の同意を得ることなく一方的にされたものであり、実質的には、請求人がJ社に支払能力がないと判断して債務保証をしたくないと考えても許されない状態での債務保証と同じであるから、所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》第2項の規定の趣旨から救済されるべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人は、本件各担保土地を取得してから譲渡するまでの間、同土地の真の所有者であったが、請求人の亡父等の多額の債務に係る各債権者の請求を逃れるため、請求人が、同土地の登記名義をJ社に変更して、虚偽の外観を作出していた際に、K国税局長が同土地を差し押さえたことが認められるところ、請求人は、当該差押えにより、本件各担保土地の譲渡代金の中から一定の支払がされるといった不利益を免れないが、この不利益の原因は、請求人が同土地につき虚偽の権利の外観を自ら作出したことにあり、当該権利の外観を信頼した善意の第三者に対して、民法第94条《虚偽表示》第2項の類推適用により、当該権利の外観が虚偽であることについて、対抗することができなくなった結果にすぎない。そして、虚偽の権利の外観を自ら作出した者は、当該権利の外観が虚偽であることを善意の第三者に対抗できないことを十分に予期し得るのであり、かつ、善意の第三者に対抗できないことについて明確な帰責性が認められるのであるから、このような者を、予期に反して求償権を行使することができなくなった場合の保証人と同一の利益状況にあるということはできず、課税上の救済を図る必要性は認められない。また、債権者との契約により債務の履行を強制されるわけではない点において、保証人や担保権設定者と立場を大きく異にしており、所得税法第64条第2項の規定を適用する前提を欠くというべきである。

《参照条文等》
 所得税法第64条第2項
 所得税基本通達64−4

《参考判決・裁決》
 さいたま地裁平成16年4月14日判決(判タ1204号299頁)
 静岡地裁平成5年11月5日判決(訟月40巻10号2549頁)
 東京地裁平成元年5月15日判決(裁Web)

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