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所得計算の特例

行使不能と認めなかった事例

  1. 交換の特例
  2. 低額譲渡
  3. 譲渡代金の回収不能
  4. 保証債務の履行
    1. 保証債務の存否
    2. 保証債務の履行のための譲渡
    3. 求償権の行使不能
      1. 求償権の行使による回収を期待しない債務の保証
      2. 行使不能と認めた事例
      3. 行使不能と認めなかった事例(8件)
    4. 対象資産の範囲
    5. 所得金額の計算
    6. 申告手続
  5. 事業廃止の場合の必要経費

保証債務の履行に係る求償権の放棄について、主たる債務者の債務超過に基づくものとは認められないとした事例

裁決事例集 No.20 - 136頁

 保証債務の履行に係る求償権の放棄について、主たる債務者は、[1]設立以来、現在まで事業を継続していること、[2]ここ数事業年度の決算では毎期純利益を計上し、繰越欠損金は減少しており、また、不良債権であるという売掛金も回収不能であると認めるに足る証拠はないこと、[3]請求人以外の者からの借入金は、返済、借入れを繰り返しながら全体に減少し、請求人が求償権を放棄した事業年度においても借入金を返済していること、[4]求償権を放棄した翌事業年度には、請求人に対し新たな貸付けを行っていること等を総合勘案すると、請求人の主たる債務者に対する求償権の放棄について、その行使ができないために行ったものと認めることは相当でない。

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妻の借入金の保証債務について所得税法第64条第2項の適用はなく、また所得税法第9条第1項第10号にも当たらないとした事例

裁決事例集 No.28 - 128頁

 本件譲渡は、妻の銀行からの借入金に係る保証債務の履行のためのものであるが、妻は資産を所有しており、求償権の行使ができないこととなった場合に当たらないので所得税法第64条第2項を適用することはできず、また、請求人は、本件譲渡時において所有する資産が負債を上回っており、請求人が資力を損失したとはいえないことは明らかであるから、同法第9条第1項第10号にも当たらない。

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主たる債務者はいまだ求償権を行使しても回収の見込みのないことが確実な状況にまで立ち至ったとは認められないので保証債務の履行に伴い求償権が行使できない場合に該当しないとした事例

裁決事例集 No.32 - 86頁

 保証債務の履行に係る求償権の放棄について、主たる債務者は、[1]経営の合理化と銀行側の協力とによって引き続きその事業を継続していること、[2]借入金の残高は年々減少していること、[3]本件求償権を放棄した直後の決算期には利益金を計上していること、[4]債務免除を受けたのは本件求償権だけであることなどから、請求人が求償権を行使しても直ちにこれに応ずることができない状況にあったとしても、いまだ求償権を行使しても回収の見込みのないことが確実な状況にまで立ち至ったとは認められないので、本件求償権の放棄はその行使ができないために行ったものと認めるのは相当でない。

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求償権の行使が不能であるから不動産の譲渡につき所得税法第64条第2項の規定が適用されるべきであるとの主張を排斥した事例

裁決事例集 No.35 - 65頁

 請求人と共同保証人の地位にある長男は、継続して会社の取締役の職にあるほか、他の会社にも勤務して相当の収入を得ており、これに同人の妻が得ている給与収入を加えると、生活費を賄う資力もないほど困窮していたとは認められず、また、長男の財産関係をみると債務超過の状況にあり、その債務の返済も相当長期にわたることが認められるものの、その債務の内容及び返済の状況などを個別にみると、結果として財産が皆無になるなどの特別の事情が生ずるとは認められず、将来においても長男が請求人の求償に応じる見通しが立たないとまでいうことはできないから、当時求償権を行使しても回収できる見込みがないことが確実な状況に至っていたとは認めることはできない。

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物上保証人と連帯保証人とを兼ねる者が債務者のために自己の出えんをもって債務を弁済した場合には、当該弁済がいずれの地位に基づくものであるかにかかわらず、他の連帯保証人に対して求償権を取得するものであり、請求人が弁済した債務額のうち、当該他の保証人に対する求償権の行使可能額に対応する部分の金額については所得税法第64条第2項の規定の適用はないとした事例

裁決事例集 No.37 - 87頁

 請求人は、本件債務の弁済は、連帯保証人兼物上保証人である請求人が物上保証人としての地位に基づいてしたものであるから、他の2名の連帯保証人に対しては求償権は発生せず、また、仮に、請求人による本件債務の弁済が連帯保証人としての保証債務の履行に当たるとしても、両名の連帯保証は債権者の要請により単に名義を借用した形式的なものであるから求償権の生ずる余地はなく、したがって、請求人が弁済した債務額の全額について所得税法第64条第2項の規定の適用を認めるべきであると主張するが、一般に物上保証人と連帯保証人を兼務する者が債務者のために自己の出えんをもって債務を弁済した場合には、当該弁済がいずれの地位に基づくものであるかにかかわらず債権者に代位し、求償権を取得するものであり、また、債権者に差し入れている保証約定書に請求人のほか両名が連帯保証人として署名捺印し本件債務を保証している以上、両名が形式的な連帯保証人である旨の請求人の主張には理由がなく、そして、両名の負担部分について特約が存在したことを認めるに足りる証拠がないから両名の負担部分は平等であり、かつ、両名は相当の資産及び所得を有するため支払能力は十分であって、両名に対するその負担部分に係る求償権の行使は可能と認められ、したがって、請求人が弁済した債務額のうち、請求人の負担部分に対応する金額を超える部分の金額については、所得税法第64条第2項の規定の適用はない。

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求償権の放棄が、主たる債務者の資産状況、経営状況からみて求償権を行使することができない状況でなされたものとは認められないので、所得税法第64条第2項の適用がないとした事例

裁決事例集 No.40 - 65頁

 請求人は、債権者集会の決議にも相当する覚書に基づいて、保証債務の履行に伴う求償権を放棄したものであると主張するが、当該覚書は、主たる債務者、請求人及びごく限られた大口債権者2社との間で締結されたものであって、法令の規定に基づく整理手続きによらない債権者集会の協議決定等で合理的な基準により負債整理を定めたものとは認められない。また、主たる債務者は、大口債権者2社の援助を受けているにせよ、自己の有する資産の売却等により欠損金を補てんし現在に至るまで引き続き事業を継続し、しかも、債務超過の額は減少の傾向にあり、請求人が本件不動産を譲渡する直前において既に当期利益を計上している事実からすれば、請求人の求償権放棄時において、主たる債務者は求償権行使不能の状況にあったとは認められないので、所得税法第64条第2項の適用を認めなかった原処分は相当である。

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保証債務の履行に伴う求償権放棄の取消通知が、消滅時効の援用により求償権の行使不能となったとしても、所得税法第152条に規定する更正請求ができないとした事例

裁決事例集 No.50 - 91頁

 請求人は、被相続人が昭和63年3月に行った求償権放棄(債務免除)の通知を平成5年1月に取り消したところ、平成5年6月に主債務者から消滅時効の援用により求償権の行使不能となったのであるから、所得税法第152条の規定により昭和62年分の譲渡所得について更正請求ができる旨主張する。
 しかしながら、次の事実からすると、本件求償債権は、被相続人が求償権放棄(債務免除)の通知を行った昭和63年3月で既に消滅していることが明らかであるので、所得税法第152条の規定に該当しないこととなる。したがって、更正をすべき理由がないとした本件通知処分は適法である。

  1.  被相続人が行った求償権放棄(債務免除)の通知書には、[1]金融機関及び関係者と協議の結果、主債務者であるG社の倒産を回避して事業を継続するために被相続人所有の土地を譲渡して、G社の借入金を弁済した、[2]被相続人がG社に有する求償債権36,076千円のうち、14,500千円を放棄する、[3]この結果、G社の財務体質が改善されると思う、旨記載されていること。
  2.  G社は、昭和63年4月期の事業年度で14,500千円を雑収入に計上するとともに、現在まで事業を継続していること。
  3.  民法第519条は、債権者が債務者に債務免除の意思表示をしたときは、当該債権は消滅する旨規定し、この債務免除は債権者の一方的な意思表示により成立し、この意思表示は撤回できないと解されていること。

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請求人らの代理人が譲渡代金の全額を買主から受領した後、代理人から当該代金を回収できないとしても、保証債務の特例は適用できないとして請求人の主張を排斥した事例

裁決事例集 No.51 - 176頁

 請求人らは、代理人であるE(譲渡土地の共有者)が買主から20億7,500万円の譲渡代金の全額を受領した後、破産宣告を受け、Eから譲渡代金の回収ができなくなったのであるから、担税力を考慮し保証債務の特例を適用すべきである旨主張する。
 しかしながら、所得税法第64条(資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例)第1項に規定する「収入金額の全部又は一部を回収することができなくなった場合」とは、売主が買主から譲渡代金の全部又は一部を回収できなくなった場合と解され、また、民法第646条の規定により、受任者は事務処理に当たり受領した金銭等を委任者に引き渡す義務があると解されている。
 このことからすると、請求人らは、Eを通じて買主から譲渡代金の全額を受領しているので、保証債務の特例を適用すべきであるという主張には理由がない。
 なお、Eが破産宣告を受けた結果、請求人らが同人から譲渡代金を回収できなくなったとしても、それは受領した譲渡代金の使途の問題であって、譲渡代金の回収不能とは別異の事実と解するのが相当である。

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