贈与税の課税財産の範囲

その他

  1. 贈与財産の範囲
  2. 贈与事実の認定
    1. 贈与登記
    2. 土地
    3. 有価証券
    4. 現金等
      1. 資産の取得金
      2. 離婚等に伴う給付
      3. その他(6件)
    5. 預貯金等
  3. 課税財産

請求人が取得した土地について、兄からの贈与によるものではなく、相続により取得したものであると認定した事例

裁決事例集 No.18 - 109頁

 原処分においては、兄が相続財産として取得した本件土地の2分の1を、その後、弟である請求人が贈与を受けたものと認定しているが、[1]本件土地について、兄を単独相続人とする旨記載した本件遺産分割協議書には、他に建物、借地権、山林、株式等があるにもかかわらず、本件土地と当該建物のみを遺産分割の対象物件とし、当該物件を相続しないものとした請求人に対して他の遺産を分割することを記載しないなどのその記載内容が極めて不自然であること、[2]本件遺産分割協議書が作成された当時、請求人は自己の実印を兄の経営する会社の金庫に預けており、兄はこれを容易に使用し得る立場にあったこと等が認められ、さらに、本件土地の相続を原因とする所有権移転登記に係る裁判(請求人からの訴えに基づくもの)における請求人、兄及び請求人の叔母の供述等を総合して考えると、本件遺産分割協議書は、兄が借入れの際本件土地に抵当権設定の必要が生じたため、請求人に無断でこれを作成したものであり、これにより本件土地につき兄名義で所有権移転登記をしたものというべきである。
 したがって、兄は遺産分割により本件土地の全部を単独所有した事実はなく、その持分の2分の1を請求人に贈与した事実もあり得ないことになる。

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母から受領した金員は亡父の遺産に係る代償金ではなく、母からの贈与であると認定した事例

裁決事例集 No.46 - 215頁

 請求人は、母から受領した金員は、亡父の遺産に係る代償金であるとし、その根拠として、母の売却した土地は亡父から母が相続したとする遺産分割協議につき、請求人はこの分割協議書を受領しておらず、かつ、この遺産分割協議書の印影の一部の相続人のものは印鑑登録がなく事実と相違しているから遺産分割は行われていない旨、また、本件金員を贈与として受領した旨記載した受領書は偽造されたものである旨主張する。
 しかし、[1]本件遺産分割協議書に記載された内容によって現実に遺産の分割が行われており、その後20数年を経過していること、[2]本件遺産分割協議書及び本件金員の受領書には代償金であることが読み取れる文言の記載がないこと、[3]本件金員の受領書が偽造されたとする事実もないことから、本件金員を母から贈与と認定した原処分は相当である。

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請求人名義の預貯金口座への各入金の事実によって、その原資が請求人の母の預貯金口座からの各出金に係る金員であると推認することはできないから、当該各入金に係る金員は贈与により取得したとは認められないとした事例

平成25年2月28日裁決

《ポイント》
 本事例は、原処分庁が請求人の母と請求人との間で贈与があったことを示す証拠として主張するその母の相続に係る相続税の調査段階における請求人の申述又は提出資料の内容について、当該調査段階においてさえ変遷が認められる上、審判所の調査によっても、当該申述又は提出資料の内容を直接裏付けるような客観的な証拠や、当該変遷に合理的な理由があることをうかがわせる証拠の存在が見当たらないから、その信用性を認めることはできないと判断したものである。

《要旨》
 原処分庁は、請求人の母名義の預貯金口座からの各出金に係る金員が請求人名義の預貯金口座への各入金に係る金員に対応する関係(本件対応関係)にあるとして、請求人が、母から、当該各出金に係る金員を取得した旨主張する。
 しかしながら、まる1当該各出金日から当該各入金日までの間隔は、長いものでは約1年10か月もあいている上、まる2当該各出金に係る金員の管理・保管状況は明らかではなく、まる3当該各入金日と同日に、請求人名義の預金口座からそれぞれの日の入金額を上回る出金がされている場合もあることのほか、まる4本件対応関係にない請求人名義の預貯金口座への入金の事実があることも踏まえると、当該各入金の事実のみから、直ちにその原資の全てが当該各出金に係る金員であると推認することはできない。ところで、本件対応関係の存在を認めることができるか否かは、請求人の母の相続税の調査段階における請求人の申述又は提出資料の信用性を認めることができるか否かに帰着するが、当該調査段階における請求人の申述又は提出資料の内容は、そもそも当該調査段階においてさえ変遷がみられるものである上、当該申述又は提出資料の内容を裏付ける客観的な証拠や当該変遷に合理的な理由があることをうかがわせる証拠の存在は見当たらないから、原処分庁がその主張の根拠とした当該申述又は提出資料についてはその信用性を認めることはできず、本件対応関係の存在を認めることもできない。そして、当審判所の調査の結果によっても、他に母から請求人に対する金員の受渡しがされた事実を認めるに足りる証拠は見当たらない。したがって、請求人が母から当該各出金に係る金員を取得したとは認められない。

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請求人の名義で登録された車両は、請求人の父がその資金の全額を拠出しており、贈与に当たるとして行われた贈与税の決定処分について、請求人に対する贈与の事実はないとして、贈与税の決定処分の全部を取り消した事例(平成20年分贈与税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分・全部取消し・平成27年9月1日裁決)

平成27年9月1日裁決

《ポイント》
 本事例は、取得資金の拠出者以外の名義で登録された財産について、相続税法基本通達9−9に基づく贈与税課税の課否を問題としたものである。

《要旨》
 原処分庁は、請求人の父(父)が請求人の名義で新たに購入した車両(本件車両)は、相続税法基本通達(相基通)9−9《財産の名義変更があった場合》により、原則として贈与として取り扱われるべきものである旨、及び本件車両の名義を請求人として登録したことが過誤に基づき、又は軽率にされたものであり、かつ、それが取得者等の年齢その他により当該事実を確認できるに足る証拠は認められないから、昭和39年5月23日付直審(資)22、直資68「名義変更等が行われた後にその取消し等があった場合の贈与税の取扱いについて」(本件通達)の5を適用することはできない旨主張する。
 しかしながら、相基通9−9は、反証があれば、贈与として取り扱わない場合があるところ、本件においては、父は購入特典の利用のために、請求人の名義を使用したことが認められ、これに加えて、1父が本件車両を請求人に贈与する動機はなかったと認められること、2請求人への贈与の事実を疑わせる事情が存在すること、3父は、本件車両の取得資金を出捐し、売却に際してはその売却代金を自ら受領・費消するとともに、その間本件車両に係る維持管理費用を全て負担していたことなどの諸事情を総合すると、本件車両の贈与の不存在について反証がされているといえる。したがって、請求人は本件車両の贈与を受けたとは認められない。なお、本件通達は、相基通9−9の要件を満たしているにも関わらず課税庁の立場から贈与として取り扱わない場合を類型化したものにすぎず、相手方による反証はこれに限定されるものではないところ、本件においてはその反証がされている。

《参照条文等》
相続税法基本通達9−9
昭和39年5月23日付直審(資)22、直資68「名義変更等が行われた後にその取消し等があつた場合の贈与税の取扱について」

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請求人の父(甲)の預金口座から請求人の預金口座に入金された資金は、請求人が甲の指示に基づき会議等に出席するための交通費等を支弁する目的のものであったと認められ、甲から請求人への贈与があったと認めることはできないと判断した事例

令和元年6月27日裁決

《ポイント》
 請求人の父(甲)の預金口座から請求人の預金口座への資金移動は、甲又は請求人の母が行っており、請求人は甲の指示に基づき、医療専門団体の会議等へ月1〜2回程度出席していた旨申述し、会議に出席するための交通費等の支払が請求人の口座から支払われている等の事実からすれば、甲は甲の指示に基づき、請求人が会議に出席する際に要する交通費等の費用を支弁する目的で甲の預金口座から請求人の預金口座に資金を移動していたとみるのが自然であり、当該資金移動により、請求人が甲から贈与により財産を取得したものとは認められないと判断したものである。

《要旨》
 原処分庁は、請求人の父(甲)の預金口座から出金された金銭が請求人の預金口座(本件請求人口座)に入金されたこと(本件資金移動)について、請求人と甲との間で金銭消費貸借契約が締結された事実及び請求人が主張する本来甲が従事すべき医療業務に請求人が代理人として従事した際に立て替えて支払った費用の精算等の事実は認められないから、請求人と甲との間には、民法第549条《贈与》に規定する贈与契約の要件事実について黙示の合意があったと認めるのが相当であり、請求人は、本件資金移動により、甲からの贈与により財産を取得したものといえる旨主張する。
 しかしながら、本件資金移動について、請求人と甲との間で金銭消費貸借契約が締結されていた事実は認められないものの、本件資金移動に係る出金及び入金の各手続は、甲又は請求人の母により行われていると認められ、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員に対して、甲の指示により月1回から2回程度の頻度で医療専門団体の会議に出席していた旨申述し、本件請求人口座から交通費等の支払がされていることなどを併せ考慮すれば、甲は、当該会議に出席した際の交通費等を支弁する目的で本件資金移動をしていたとみるのが自然であり、請求人に、本件資金移動によって贈与と同様の経済的利益が生じていたと認めることはできないから、請求人は甲からの贈与により財産を取得したと認めることはできない。

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前住職から請求人への資金移動により相続税法第66条第4項に規定する贈与者である前住職の親族等の相続税の負担が不当に減少する結果になるとは認められないとした事例

令和3年5月20日裁決

《ポイント》
 本事例は、前住職から請求人への資金移動は、相続税法第66条第4項に規定する財産の贈与に該当すると認められるものの、前住職及びその親族が、請求人の業務運営、財産運用及び解散した場合の財産の帰属等を事実上私的に支配している事実は認められないことから、相続税法第66条《人格のない社団又は財団等に対する課税》第4項に規定する贈与者である前住職の親族等の相続税の負担が不当に減少する結果となるとは認められないとしたものである。

《要旨》
 原処分庁は、請求人が相続税法施行令第33条《人格のない社団又は財団等に課される贈与税等の額の計算の方法等》第3項第1号ないし第3号の各要件をいずれも満たしていないことに加え、1前住職から請求人への資金移動(本件資金移動)の時点における請求人の役員の3分の2を前住職及びその親族(前住職ら)で占めており、請求人の業務を自由に裁量できる立場であったこと、2請求人は前住職らに対し、生活費の供与など特別の利益を与えていること、及び3請求人が解散した場合、前住職らに財産が帰属することなどを理由として、前住職から請求人への資金移動により相続税法第66条第4項に規定する贈与者である前住職の親族等の相続税の負担が不当に減少する結果となる旨主張する。
 しかしながら、請求人は上記施行令の規定には該当しないものの、1前住職らによる請求人の業務運営及び財産管理については、請求人の総代が相当程度に監督しているものと認められるほか、前住職らが私的に業務運営や財産管理を行っていたとまでは認められないこと、2前住職らが、本件資金移動の時点において、請求人の財産から私的に生活費などの財産上の利益を享受した事実は見当たらないこと、及び3前住職らが恣意的に請求人を解散し、その財産を私的に支配することができるとはいえないことから、本件資金移動は、前住職から請求人への贈与に該当するとしても、本件資金移動により相続税法第66条第4項に規定する前住職の親族等の相続税の負担が不当に減少する結果となるとは認められない。

《参照条文等》
 相続税法第9条、第66条第4項
 相続税法施行令第33条第3項

《参考判決・裁決》
 東京高裁昭和49年10月17日判決(行集25巻10号1254頁)
 東京高裁昭和50年9月25日判決(行集26巻9号1023頁)
 昭和50年9月30日裁決(裁決事例集No.11)

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