相続税の課税価格の計算

その他

  1. 分割財産に係る課税価格
  2. 非課税財産
  3. 債務控除
    1. 借入金
    2. 敷金、保証金等
    3. 判決、訴訟上の和解による債務
    4. 物上保証、連帯債務等
    5. 使用人に対する退職金債務
    6. 保証債務
    7. その他(12件)
  4. 相続開始前3年以内の贈与
  5. その他

土地区画整理事業において見込まれる減歩部分に相当する金額は相続債務ではないとした事例

裁決事例集 No.14 - 43頁

 相続財産に含まれる本件土地は、土地区画整理事業区域内に所在しており、換地に係る平均減歩率は25パーセントが見込まれている。
 しかしながら、土地区画整理法第89条第1項によれば、「換地計画において換地を定める場合においては、換地及び従前の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等は照応するように定めなけばならない。」と規定されており、従前の宅地の上に存したすべての権利義務が原則として同一の内容をもって換地の上に存続することとされているから、換地処分により減歩される面積に相当する金額が負債性を有するものとは解されない。また、本件相続開始時においては、換地計画の決定もなされていないことから、減歩面積の確定ができる段階ではないことが認められる。
 したがって、本件相続開始時において、土地区画整理事業に関連して本件土地について負債性を有する要因の発生する余地はなく、また、現に発生していないことが認められるとした原処分は相当である。

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団体信用生命保険契約に基づき被相続人の死亡を保険事故として支払われる保険金により充当される被相続人の債務は債務控除の対象にならないとした事例

裁決事例集 No.35 - 141頁

 被相続人の債務は、団体信用生命保険契約に基づき被相続人の死亡により支払われる保険金によって補てんされることが確実であって、相続人が支払う必要のない債務であるから、相続税法第14条に規定する「確実な債務」に当たらず、相続税の課税価格の計算上債務として控除することはできない。

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遺言執行者に対する報酬(遺言執行費用)支払債務は、相続税法第13条に規定する債務に該当しないとした事例

裁決事例集 No.38 - 207頁

 遺言執行者の指定は、要式行為であって遺言によることを要し、生前において被相続人がA弁護士に遺言の執行を依頼し、かつ、一定の報酬を支払う旨の合意をしたとしても、かかる合意は、遺言執行者の指定を内容とする有償の委任契約としての効力を有しないところ、遺言は、遺言執行者を指定した部分を含め、遺言者の死亡の時に初めてその効力を生ずるのであるから、被相続人がA弁護士との間の合意によって、被相続人が生前において本件債務を負うことはあり得ないというべきである。むしろ、遺言執行者に関しては委任に関する規定が準用され、遺言執行者と相続人の関係は、委任に準じた法律関係により律せられるというべきであるから、本件債務を負担するのは請求人ら相続人であるというべきである。
 したがって、本件債務は、被相続人の債務とはいえず、本件債務を請求人が相続により取得した財産の価格から控除することはできない。

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林道工事に係る受益者負担金は、その納入通知が相続開始後になされているので債務控除の対象にならないとした事例

裁決事例集 No.42 - 188頁

 本件林道工事はP県の補助事業として5か年計画による単年度予算に基づく単年度事業として行われているので、当該林道工事に係る受益者負担金額は、単年度工事請負契約を締結した後に、その請負金額(工事金額)を基に受益者に対して納入通知することによって確定するもので、当該工事の施行決定によって確定していたとは認められない。したがって、相続開始の日までに納入通知が発行されていない本件受益者負担金については、相続税の課税価格の計算上債務控除することはできない。

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借地人に対する立退料支払債務は、確実と認められる債務といえ、債務控除の対象になると認められるが、借地権の引渡請求権(立退料の金額と同額)が相続財産となるので相続税の課税価格は減額されないとした事例

裁決事例集 No.57 - 429頁

 本件土地については、合意契約により同土地についての賃貸借契約を解除し、借地権を買い戻すことが合意されたのは相続開始より前であること及び相続開始の時点において、合意契約による立退料の全額が未払いであったことがそれぞれ認められる。
 そうすると、合意契約による借地権の買戻しの対価としての性格を有するところの立退料は、相続開始の時点までに成立し、それが未払いであり、かつ、当該債務について具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していたというべきであるから、確実と認められる債務に該当するといえる。
 一方、被相続人は、本件土地に係る借地権の引渡請求権を有していたと認められ、請求人は、本件土地の底地及び借地権の引渡請求権を相続したものといえる。そして、借地権の引渡請求権の価額は、合意契約において定められた借地権の代価の額(立退料の額)とするのが相当である。
 したがって、合意契約による立退料支払債務が債務控除されたとしても、借地権の引渡請求権が相続財産となるので、本件相続に係る課税価格は減額されない。

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請求人が、被相続人の財産から親族に支払った金員は、相続開始後に成立した贈与契約に基因するもので、相続開始の際に現に存する確実な債務ではないとした事例

裁決事例集 No.61 - 560頁

 請求人は、1億円の贈与義務(「本件債務」という。)は相続開始の際に現に存する債務であり、相続税の課税価格の計算上控除すべき金額であると主張する。
 しかしながら、贈与債務が、相続税の課税価格の計算上債務として控除するための要件を充たすには、相続開始までにその贈与債務の基礎となる贈与契約が成立しており、かつ、相続開始のときに債務者(贈与者)につきその債務の履行が義務づけられる未履行の贈与債務であることが必要であるところ、本件においては、相続開始の時点においては、被相続人と受贈者の代理人との間で交渉が終了していたとはいえず、相続開始後に取り交わされた基本合意書をもって贈与額が確定し、これにより贈与契約が成立したものと認められることから、本件債務は相続開始の際に現に存する確実な債務には該当しない。

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被相続人の損害賠償債務は、制限納税義務者である請求人の相続税の課税上、控除すべき債務には当たらないとした事例

裁決事例集 No.75 - 531頁

  1.  本件取得不動産には、被相続人に対する損害賠償請求権を保全するための仮差押えがされているのみであって、本件相続開始日現在、本件債務に係る留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権は成立しておらず、したがって、本件債務は、相続税法第13条第2項第2号に掲げる「その財産を目的とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権」によって担保される債務には該当しない。
     なお、請求人は、相続税法第13条第2項第2号の規定は、制限的ではなく、実質的に解釈して拡大適用する余地があり、本件債務は、本件取得不動産が仮差押えされ、弁済を迫られた結果としての債務であり、同号に掲げる債務と同様の負の効果を有しているのであるから、同号を拡大適用すべき旨主張するが、相続税法第13条第2項の規定は、制限納税義務者が相続又は遺贈により取得した財産から控除できる債務を限定的に列挙したものであるから、同項第2号の規定は、拡大適用すべきでなく、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
     また、本件債務は、請求人がG社に対して支払義務を認めた被相続人の損害賠償債務であることから、本件取得不動産に係るその財産の未払取得代金、未払修繕費及び未払管理人賃金などその財産の取得、維持又は管理のために生じた債務には当たらず、相続税法第13条第2項第3号に掲げる債務にも該当しない。
     請求人は、本件債務は、仮差押えされた本件取得不動産を財産として維持するための債務であり、同項第3号に掲げる債務に該当する旨主張するが、同号に掲げる債務とは、その財産の未払取得代金、未払修繕費及び未払管理人賃金など、その財産そのものの取得、維持又は管理のために生じた債務をいうものであるところ、本件債務は、本件取得不動産そのものの取得、維持又は管理のために生じた債務とは認められないことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
  2.  本件弁護士費用の内訳は、1「本件損害賠償請求権査定申立の件」、2「債務弁済契約公正証書作成の件」及び3「不動産売却に関するアドバイス」に関するものであり、本件取得不動産そのものの取得、維持又は管理のために生じた債務とは認められないことから、相続税法第13条第2項第3号に掲げる債務には該当しない。
     なお、請求人は、本件弁護士費用は、被相続人が生前に、自己の財産を維持し、保全するために要した費用に係る債務であり、請求人にとっても、同様に、相続した本件取得不動産を完全に自己のものとして維持し、保全するためのいわゆるひも付の債務であるから、仮差押えされた本件取得不動産を財産として維持し、保全するために生じた債務であり、相続税法第13条第2項第3号に掲げる債務に該当する旨主張するが、同号に掲げる債務とは、その財産の未払取得代金、未払修繕費及び未払管理人賃金など、その財産そのものの取得、維持又は管理のために生じた債務をいうものであるところ、本件弁護士費用は、本件取得不動産そのものの取得、維持又は管理のために生じた債務とは認められないことから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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相続税法基本通達13−3ただし書の定めにより、他の共同相続人の債務等超過分を請求人の課税価格から控除するためには、債務等超過分を控除することが可能な者の合意が必要であるとした事例

裁決事例集 No.79

 請求人は、相続税法基本通達13−3ただし書は、債務等超過分を控除するに当たって共同相続人全員の合意が必要であるとは定めていないから、請求人の更正の請求における課税価格の計算上、債務等超過分を控除すべきである旨主張する。
 しかしながら、当該通達は、共同相続人が法定相続分の割合に応じて負担することとした場合の債務及び葬式費用の金額が相続により取得した財産の価額を超えることとなる場合において、その債務等超過分を他の共同相続人の相続税の課税価格の計算上控除することとして申告があったときは、これを認める旨定めているところ、共同相続人の中に債務等超過分を控除することが可能な者が複数いる場合、それぞれが任意に債務等超過分を自己の相続税の課税価格の計算上控除して申告できるとすれば、債務等超過分が重複して控除されることも想定されることになり妥当でなく、当該通達がそのような事態まで許容する趣旨でないことは明らかであり、また、先に申告した者のみ控除が認められるとすることも公平性に欠け、妥当でない。
 したがって、債務等超過分を控除することが可能な者が複数いる場合には、これらの者の間において、債務等超過分をどのように配分するかについての調整・合意がなされていることが前提になっていると解するのが相当であるところ、請求人は、債務等超過分を控除することが可能な他の共同相続人の合意を得ていないから、請求人の更正の請求における相続税の課税価格の計算上、他の共同相続人に生じた債務等超過分を控除することはできない。

《参照条文等》
相続税法第13条
相続税法基本通達13−3

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実際に負担する金額が確定していない葬式費用は、民法第900条から902条までの規定による相続分又は包括遺贈の割合で計算すべきとした事例

平成24年5月15日裁決

《ポイント》
 本事例は、遺産の全部を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言が相続分の指定としての性質を有するとの解釈を前提に、請求人に指定された相続分は全部であるとの認定の下、葬式費用の負担額について認定したものである。

《要旨》
 原処分庁は、本件相続における葬式費用(本件葬式費用)は、請求人以外の相続人により支払われていることから、当該相続人の課税価格の計算上控除すべきである旨主張する。
 しかしながら、相続税法第13条第1項《債務控除》は、相続又は遺贈により取得した財産について課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人に係る葬式費用等のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による旨規定し、相続税法基本通達13−3《その者の負担に属する部分の金額》は、その者の実際に負担する金額が確定していないときは、民法第900条《法定相続分》から902条《遺言による相続分の指定》までの規定による相続分又は包括遺贈の割合に応じて負担する金額とする旨定めているところ、本件葬式費用については、請求人と当該相続人との間で負担額が確定しておらず、遺言により請求人の相続分が指定されていることから、当該指定された相続分に応じ、その全額を請求人の課税価格の計算上控除するのが相当である。

《参照条文等》
 相続税法基本通達13−3

《参考判決・裁決》
 最高裁平成21年3月24日第三小法廷判決(民集63巻3号427頁)

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被相続人の生前に解除された借地契約の約定により請求人らが負うこととなった建物を収去して土地を明け渡す債務は、相続開始日に現に存し、その履行が確実であったと認められるから、債務控除の対象となると判断した事例(平成23年5月相続開始に係る相続税の更正処分・一部取消し・平成30年7月9日裁決)

平成30年7月9日裁決

《ポイント》
 本事例は、被相続人の生前に解除された借地契約の約定により請求人らが負うこととなった建物を収去して土地を明け渡す債務は、相続開始日に現に存し、その履行が確実であったと認められるところ、請求人らが負担した建物収去費用の根拠となった見積書については、その算定根拠が不正確ないし不明なものがあり、経済合理性を欠くものであるが、請求人らが別途依頼していた他の業者が作成した見積書は、経済合理性にかなうものと認められるから、当該他の業者が作成した見積書の金額をもって、債務控除の対象となる金額とするのが相当であるとしたものである。

《要旨》
 被相続人の生前に解除された借地契約の約定により請求人らが負うこととなった建物収去及び土地明渡しに係る債務(本件債務)について、原処分庁は、土地明渡しに係る債務については確実な債務であるが、当該土地明渡しに要する金額は零円であり、建物収去に係る債務については建物を収去することなく現状有姿で引き渡すことも選択可能であったから、確実な債務ではなく、いずれも相続税の課税価格の計算上控除すべき債務には当たらないと主張し、請求人らは、本件債務は相続開始時に現に存し、確実と認められる債務であるから、控除すべき債務であると主張する。しかしながら、本件債務は、相続開始日に現に存し、その履行が確実な債務であったと認められるのであり、原処分庁の主張するところは、確実な債務の履行手段であって、これは相続開始後の事情というほかないから、相続税法第22条《評価の原則》が「控除すべき債務の金額は、その時の現況による」旨規定している趣旨に照らし、採用できない。なお、請求人らが負担した建物収去費用の根拠となった見積書については、算定根拠が不正確ないし不明なものがあり、経済合理性を欠く内容であるから、当該見積書を算定根拠とした金額を控除すべき債務の金額としては採用できず、他方、請求人らが別途見積りをしていた他の業者による見積書は詳細かつ正確なものであり、経済合理性にかなうものと認められるから、当該見積書の見積金額をもって控除すべき債務の金額とするのが相当であり、原処分については、その一部を取り消すべきである。

《参照条文等》
 相続税法第13条、第14条、第22条

《参考判決・裁決》
 最高裁昭和49年9月20日第三小法廷判決(民集28巻6号1178頁)

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被相続人が生前に解除した建築工事請負契約に基づく約定違約金等は、相続開始日現在、現に存しその履行が確実であったと認めるのが相当であると判断した事例

平成31年4月19日裁決

《ポイント》
 本事例は、被相続人が生前に解除した建築請負契約に基づく約定違約金は相続開始日に現に存し、その履行を免れないものであり、原処分庁が指摘する審査請求人らも支払を拒否して係争中であったことは、請求人が他の事由により請負業者に対して損害賠償を求めたものであって、そのことをもって当該約定違約金の支払義務が消滅等するものではないから、履行が確実な債務であったと認めるのが相当であると判断したものである。

《要旨》
 原処分庁は、被相続人が生前に解除した建築工事請負契約に基づく約定違約金等について、被相続人に支払う意思はなく、相続人である審査請求人も支払を拒否して係争中であったことをもって、確実な債務ではない旨主張する。
 しかしながら、相続税の課税価格から控除する債務は、相続開始当時の現況に照らし、債務が現に存するとともに、その履行が確実と認められるものをいうと解されるところ、当該約定違約金等は、相続開始日に現に存し、その履行を免れないものであるから、履行が確実な債務であったと認めるのが相当であり、債務者の履行の意思によってその確実性の判断を異にするものとは解されず、また、原処分庁が指摘する「係争」は、審査請求人が請負者側の説明義務違反等を理由として損害賠償を求めたものであり、そのことをもって当該約定違約金等の支払義務が消滅したり、履行の確実性が失われたりするものではないから、原処分庁の主張はいずれも採用できず、当該約定違約金等は相続税の課税価格から控除する債務に当たる。

《参照条文等》
 相続税法第13条、同法第14条

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相続開始後にされた修繕工事代金相当額は、相続税の課税価格の計算における債務控除をすることができないと判断した事例(令和元年8月相続開始に係る相続税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分・棄却)

令和5年6月27日裁決

《ポイント》
 本事例は、被相続人が生前にした工事請負契約に基づき、相続開始後にされた修繕工事に係る請負代金相当額は、相続開始当時、工事が着工されていないことや、従前どおり賃借人が使用収益していたことなどの現況に照らし、その履行が確実と認められる債務には当たらないと判断したものである。

《要旨》
 請求人は、相続により取得した賃貸倉庫に係る修繕工事(本件修繕工事)について、被相続人は、1生前に請負契約を締結していたことから、相続開始日時点に当該請負契約に係る支払債務を負っていたと認められ、また、2民法第606条《賃貸人による修繕等》第1項の規定に基づき、当該賃貸倉庫に係る土間床の修繕義務を負っていたことから、相続税の課税価格の計算上、その請負代金相当額を債務控除することができる旨主張する。
 しかしながら、被相続人は、1本件修繕工事の着工日前である相続開始日時点において、その請負代金の支払債務の履行を施工業者から求められる状況になく、その履行の要否すらも不確実な状況にあり、また、2本件修繕工事の着工日までは、従前どおり賃借人が賃貸倉庫を引き続き使用収益していたなどの状況からは、当該賃貸倉庫に係る修繕は、任意の履行が事実上期待されていたにすぎないものであったとみるのが相当であることからすると、当該請負代金の支払債務ないし当該賃貸倉庫に係る修繕義務は、その履行が確実と認められる債務には当たらないというべきであるから、相続税の課税価格の計算上、当該請負代金相当額を債務控除することはできない。

《参照条文等》
 相続税法第13条第1項、第14条第1項

《参考判決・裁決》
 平成31年4月19日裁決(裁決事例集No.115)

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