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受けた利益額の算定
- 第二次納税義務の通則
- 清算人等の第二次納税義務
- 共同的な事業者の第二次納税義務
- 無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務
- 処分の意義
- 徴収不足との関係
- 無償譲渡と認めた事例
- 無償譲渡と認めなかった事例
- 低額譲渡と認めなかった事例
- 利益を与える処分
- 受けた利益額の算定(6件)
- 債務免除
- その他
- 事業を譲り受けた特殊関係者の第二次納税義務
- その他
請求人と滞納会社が共同して売却した本件不動産(土地は各別に所有、建物は共有)の売却代金について、不動産の持分に応じて配分を受けるのが相当であるから、請求人は受けた利益を限度として滞納国税につき第二次納税義務を負うとした事例
請求人は、[1]請求人所有の土地(以下「本件土地」という。)は滞納会社からの要請により購入したものであるが、通常の価額より高価で購入せざるを得なかったこと及び[2]共有建物(以下「本件建物」という。)にあった請求人の工場を閉鎖したことによる各損失の補てんを受けることを条件に滞納会社と共同での売却を承諾したものであり、当該損失補てんの額を売却代金の配分額に含めて受領したのであるから、合理的な理由があり、第二次納税義務を負うものではない旨主張する。
しかしながら、上記[1]については、本件土地を通常の価額より高額で購入せざるを得なかった理由が証拠上明らかでなく、また、仮に通常の価額より高額で取得した土地が売却時の通常の価額より高額で売却できなかったとしても、損失を被ったということはできないこと及び上記[2]については、利益が生じている工場を直ちに閉鎖することは通常の経済人の選ぶところではなく、また、売却前の年間利益の5年分の損失補てんを相当とする理由についての主張・立証もないことから、請求人の主張は採用することができない。さらに、請求人の代表者親子が請求人及び滞納会社の発行済株式又は出資金額の過半を占め、双方の役員を兼ね、滞納会社の代表者も請求人の役員を兼ねていたこと及び本件建物の増築が請求人の計算によりなされてきたことからみて、請求人と滞納会社とは独立の経済人として相対する状況にあったとは認められず、また、請求人が明確な根拠をもって上記損失の額を滞納会社に要求していたとは認められない。
したがって、請求人が配分を受けるべき金額は、本件土地の評価額及び本件建物の持分に応じた金額とするのが相当であり、それを超える金額について、請求人は滞納会社から無償による利益を受けたものと認められる。
平成10年2月26日裁決
担保権付不動産の贈与を受けた場合における国税徴収法第39条の第二次納税義務の限度額の算定に当たり、当該担保権の存在を減額要因として認めなかった事例
請求人は、請求人が夫から贈与を受けた不動産には担保権が設定されており、いつ担保権を実行されるかもしれない状況にあったこと、また、その後、当該担保権の被担保債権について請求人が保証したことから、当該贈与時における当該不動産の価額は零円であり、したがって、国税徴収法第39条の受けた利益も零円となるから、請求人が負うべき第二次納税義務はない旨主張する。
しかしながら、贈与を受けた不動産に担保権が設定されていたとしても、一般に、担保権が実行されるか否かは不確実であり、また、担保権が実行されたとしても債務者に求償することが可能であるから、受贈者が贈与とともに債務を引き受けた場合や贈与を受けた時に債務者が弁済不能の状態にあるため担保権を実行されることが確実であり、かつ、債務者に求償しても弁済を受ける見込みがないという場合を除き、担保権が設定された贈与不動産の価額は、担保権が付されていないとした場合の不動産の時価によるべきところ、請求人及び夫にはこれらの事情が認められず、また、債務を保証したとしても、当然に債務を引き受けたことにはならないので、請求人が当該贈与により受けた利益の額は当該不動産の時価となり、その価額を財産評価基本通達により算定すると、請求人が贈与税の課税価額として申告した額と同額になる。そうすると、請求人は、贈与価額を限度として、夫の滞納国税に係る第二次納税義務を負うことになるから、請求人の主張には理由がない。
平成20年10月22日裁決
国税徴収法第39条の規定による第二次納税義務を負う受贈者が相続時精算課税制度を選択したことによって財産の贈与を受けた後に納付すべきこととなる相続税は、同条の受けた利益の額を算定するに当たって受益財産の価額から控除することはできないとした事例
請求人は、特定贈与者から生前贈与を受けて相続時精算課税を選択していた場合、国税徴収法第39条の規定により受贈者が負う第二次納税義務の限度となる「受けた利益の限度」を算定するに当たっては、相続時精算課税による相続税額を控除すべきであると主張する。
しかしながら、同条にいう「受けた利益の限度」の額は、同条が滞納者の親族その他の特殊関係者に、その受けた利益が後に現存しなくてもなお受けた利益の限度において第二次納税義務を負担させていることからすれば、その算定上受益財産の価額から控除すべき対価及び費用は、当該受益の時においてその存否及び数額が法律上客観的に確定しているものであることを要すると解するのが相当であるところ、贈与税の申告に当たって相続時精算課税を選択した相続時精算課税適用者がその後納付する相続税額は、特定贈与者の死亡による相続開始の時に、当該贈与により取得した財産と相続又は遺贈により取得した財産とを合計した価額から、相続債務や葬式費用、基礎控除等を控除した価額を基に相続税額を計算した上、既に支払った贈与税額を控除して算出するものであり、贈与によって取得した財産の価額のみならず、当該贈与から特定贈与者の死亡までの財産の得喪及び債務の増減、相続開始日までの推定相続人の人数の増減、当該贈与を受けた者が相続又は遺贈によって取得した財産の価額や相続債務等により、その存否又は納付すべき税額が決定されるのであるから、受益の時においてその存否及び数額が法律上客観的に確定しているとはいえない。
したがって、当該相続税は、国税徴収法第39条の「受けた利益の限度」の額の算定に当たり、受益財産の価額から控除することができないと解するのが相当である。
平成21年4月7日裁決
第二次納税義務の納付告知処分の「受けた利益の限度」の額は、譲り受けた財産等の価額から無償譲渡等の処分と直接対価性のある支出又は負担を控除した残額であることを明らかにした事例
《要旨》
請求人は、原処分庁が納税者(本件滞納者)の滞納国税を徴収するために、請求人に対して行った第二次納税義務の納付告知処分の「受けた利益の限度」の額について、請求人は本件滞納者から売掛金債権(本件売掛金債権)を譲り受けたが、請求人が本件滞納者に支出した香典代等(本件香典代等)は、請求人が本件滞納者に利益を与える行為であるから、「受けた利益の限度」の額の算定上、本件香典代等を控除すべきである旨主張する。
しかしながら、第二次納税義務の制度の趣旨に鑑みれば、国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する「受けた利益の限度」の額については、譲り受けた財産の額、免れた債務の額、又は享受した利益の額から、これらと直接の対価関係にあると認められる支出又は負担を控除した残額をいうところ、本件香典代等の支出は、本件売掛金債権の譲渡と直接の対価関係にあるとは認められないことから、請求人の主張には理由がない。
《参照条文等》
国税徴収法第39条
国税徴収法第39条が規定する「受けた利益」が取引相場のない株式である場合において、同条の第二次納税義務の限度額の算定に当たり、原処分庁がディスカウント・キャッシュ・フロー法と時価純資産法を併用して当該株式を評価したことに不合理な点は認められないとした事例
《要旨》
原処分庁は、滞納法人が同社の100%子会社の株主総会において第三者割当増資による新株の発行に係る議案について議決権を行使したことにより、滞納法人の代表者である請求人が著しく低い価額で当該子会社の新株(本件新株式)を取得したことは、国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する「その他第三者に利益を与える処分」に該当するとして、請求人に第二次納税義務の納付告知処分をした。
これに対して、請求人は、原処分庁が本件株式の評価に当たって、一般に用いられる相続税の評価方法を準用せず、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)を加味して評価したことには合理性がなく、そもそも、本件株式の取得価額は時価相当額であるから、本件株式を取得したことによって「受けた利益」(時価相当額と取得価額との差額)は生じていない旨主張する。
しかしながら、国税徴収法第39条の第二次納税義務の限度額について、「受けた利益」が金銭以外のものであるときの財産の評価方法として、同法上、相続税の評価方法を適用又は準用する旨の規定はなく、取引相場のない株式の評価に当たり、DCF法と時価純資産法の併用を採用した原処分庁の評価方法に不合理な点は認められず、請求人には本件株式を取得したことによって「受けた利益」が生じている。
《参考判決・裁決》
最高裁平成18年1月24日第三小法廷判決(集民219号285頁)
第二次納税義務の受けた利益の額の算定において、無償譲渡した不動産を財産評価通達を参考にして評価することは妥当とはいえないとして、納付告知処分の一部を取り消した事例
《ポイント》
本事例は、国税徴収法第39条の第二次納税義務における受けた利益の額は、財産処分時等の現況に応じて、客観的な交換価値である通常の取引価額により算出するものとして、国税不服審判所における不動産鑑定評価による認定額を用いて審理をしたものである。
《要旨》
請求人らは、国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》の受けた利益の限度の算出に当たり、仮に、本件贈与者が本件各係争不動産を贈与したこと(本件各贈与)がなかったならば、本件各係争不動産は別件各公売不動産と一緒に公売されていたと想定されるから、広大地評価による減価を考慮して算定すべきである旨、また、本件建物1は、その贈与当時、賃貸されていたが、耐用年数が経過していることから、建物の取壊費用相当額を減額すべきである旨主張する。
しかしながら、請求人らの主張は、本件各贈与がなかったという仮定に基づくものにすぎず、実際には本件各贈与が行われており、前提を欠き、本件建物1の経済的残存耐用年数は6年だったこと、賃貸としての利用が最有効使用であること等から、価額の算定に際し、更地価額から建物の取壊費用相当額を減額するのは合理的ではない。一方、原処分庁は、譲受財産の価額を財産評価基本通達(評価通達)により算定することは特段不合理ではない旨主張する。
しかしながら、評価通達は、相続税等の課税価格計算の基礎となる財産の評価を定めたものであり、譲受財産の価額の算定に評価通達を適用すべきとする法令等の規定は存在せず、本件では、当審判所が原処分庁とは異なる算定をした本件各係争不動産のうち、建物の一部が隣接地との境界を越えて建っていること、一部の土地上に経済的合理性を有しない賃貸用建物が存在すること、建物の所有者に使用借権があること、一部の土地が共有関係にあることなどを考慮して算定する必要があるにもかかわらず、原処分庁が算定した価額では、これらの事情が適切に考慮されていないから、これらの価額の算定に際して評価通達を参考にするのは妥当とはいえない。
《参照条文等》
国税徴収法第39条
国税徴収法第32条
国税徴収法基本通達第39条関係12
国税徴収法基本通達第39条関係16