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無償譲渡と認めた事例
- 第二次納税義務の通則
- 清算人等の第二次納税義務
- 共同的な事業者の第二次納税義務
- 無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務
- 処分の意義
- 徴収不足との関係
- 無償譲渡と認めた事例(16件)
- 無償譲渡と認めなかった事例
- 低額譲渡と認めなかった事例
- 利益を与える処分
- 受けた利益額の算定
- 債務免除
- その他
- 事業を譲り受けた特殊関係者の第二次納税義務
- その他
法人税法上役員賞与としたものを無償譲渡と認めて第二次納税義務を課しても矛盾がないとした事例
裁決事例集 No.9 - 31頁
法人税法上の役員賞与とは、役員に対する給与のうち、臨時的に不定期で支給されるもので、退職給与以外のものをいい、債務の免除等による経済的利益をも含むものとされ、会社の役員に対する贈与等とみられる場合であっても、役員賞与となるものと解される。また、国税徴収法第39条の「無償による譲渡」とは民法上の贈与等を指すものと解すべきである。したがって法人税法上役員賞与としたものを国税徴収法第39条にいう無償譲渡と認めて第二次納税義務を課しても何ら矛盾するものではない。
昭和49年9月27日裁決
滞納会社の家賃収入計上漏れ等により生じた簿外の金員を取得した代表者に対する第二次納税義務の告知処分は相当であるとした事例
裁決事例集 No.29 - 157頁
滞納会社の代表者である請求人は、同社の家賃収入計上漏れ等に係る金員を贈与により取得した事実はないことを理由に同社の滞納国税の第二次納税義務を負うものではない旨主張するが、請求人は同社の家賃収入計上漏れ等により生じた簿外の金員を取得しており、それは同社からの請求人に対する贈与であると認められ、また、当該滞納国税について同社に対する滞納処分を執行してもなお徴収不足を生じると認められることが、その国税の法定納期限の1年前の日以後に行われた当該贈与に起因すると認められる。
したがって、原処分庁が国税徴収法第39条の規定に基づき、滞納会社の特殊関係者である請求人に対し、当該贈与に係る金額を限度としてなした第二次納税義務の告知処分は相当である。
昭和60年1月31日裁決
滞納者から金銭の贈与を受けたことを理由とする国税徴収法第39条に基づく第二次納税義務の告知処分は相当であるとした事例
裁決事例集 No.39 - 459頁
滞納者(会社)は、土地を譲渡した後代金の一部60,000,000円を第三者(2名)に対する債務の弁済の名目で流出し、これを当該第三者名義の預金に預け入れており、更にその資金が請求人(滞納者の代表取締役の妻が代表取締役である会社)に対し貸付金の名目で移動している。
しかし、[1]滞納者の帳簿には、当該第三者からの借入金の記載はなく、[2]当該第三者は、請求人の代表者の実弟(大学生)又は滞納者の代表者の娘婿であるところ、いずれも滞納者に対する債権及び請求人に対する債権の存在を否定していること等から、当該金員は、実質的には滞納者から請求人に直接渡ったものと認めるのが相当である。
また、請求人から滞納者に対する何らの反対給付もないことから、原処分庁がこの金員の範囲内である58,000,000円の限度で贈与と認定したことは相当である。
そうすると、滞納者についての徴収不足は、上記金員の贈与に基因すると認められるから、国税徴収法第39条に基づく第二次納税義務の告知処分は適法である。
平成2年6月26日裁決
滞納会社の所有する土地持分の上に請求人が建物を新築するに当たり、借地権の無償設定によって国税徴収法第39条にいう利益を受けたものと認定した事例
裁決事例集 No.40 - 247頁
滞納会社の所有する本件土地持分を請求人が利用する場合の法律関係について、請求人は、使用貸借であって借地権の無償設定ではない旨主張するが、滞納会社の所有する本件土地持分の利用関係が無償のものであるからといって、直ちにこれを単なる使用貸借と即断することは相当ではなく、右土地持分の利用関係は、請求人らによる本件建物の新築によって開始されたもので少なくとも本件建物を長期間にわたって使用することが予定されたものであり、また、本件土地の共有者である滞納会社の代表取締役は、請求人の夫の父であり、同社の発行済株式の80パーセントに相当する株式は当該代表取締役の親族によって所有されていることからみて、滞納会社が請求人らに対して滞納会社の所有する本件土地持分の返還を求めるようなことは実際上ほとんど考えられないから、請求人らの、滞納会社の所有する本件土地持分の利用関係は、事実上、権利性のかなり強いものであって、税法上はこれを借地権と評価するのが相当である。
したがって、請求人らの本件建物の新築に際し、滞納会社の所有する本件土地持分につき無償で借地権が設定された事実が認められるので、請求人は、借地権の無償設定により、国税徴収法第39条にいう利益を受けたものというべきである。
平成2年7月31日裁決
滞納者が請求人に対してした離婚に伴う財産分与及び子の監護費用分担額の一時の支払につき、不動産を給付した上で保有し得た財産の2分の1に相当するまでの金額については、不相当に過大と認めることはできないが、これを超える部分については、不相当に過大なものとして国税徴収法第39条に規定する無償譲渡等処分に該当するとした事例
請求人は、本件不動産等の譲受け及び本件金員(60,000,000円)の受領は、離婚に伴う財産分与及び慰謝料として相当であり、国税徴収法第39条に規定する無償の譲受けには当たらないので、第二次納税義務を負うべき理由はない旨主張するが、請求人には本件調停当時の滞納者の総財産の価額(一応の算出価額201,458,153円)の過半に達する本件不動産等(同134,344,915円)の給付がされていること並びに請求人の離婚後扶養料及び子の監護費用分担額等の金額を踏まえて判断すると、本件金員に関しては、滞納者が本件不動産等を請求人に給付した上で保有し得た財産の2分の1に相当するまでの金額については、不相当に過大とまで認めることはできず、他方、これを超える部分については、不相当に過大なものと認めることができるから、請求人はこの金額の限度において、本件滞納国税の第二次納税義務を負うことになる。
平成7年3月30日裁決
滞納会社が売上除外金から取締役に支出した金員は、社員総会において承認の決議を受けた損益計算書には計上されていないことから、職務執行の対価としての役員報酬には当たらず、国税徴収法第39条に規定する無償譲渡に当たるとした事例
請求人は、滞納会社が売上除外金から請求人に支出した金員(本件金員)の性格は職務執行の対価たる役員報酬であると主張するが、滞納会社では社員総会決議によって役員報酬の総額が定められており、社員総会で承認された損益計算書に計上されている金額が役員報酬となるところ、本件金員は、社員総会において承認の決議を受けた損益計算書には計上されていないことから、職務執行の対価としての役員報酬には当たらない。
そうすると、本件金員の授受は滞納会社から請求人への贈与であり、国税徴収法第39条に規定する無償譲渡に該当する。
重加算税の賦課決定処分は課税面の処分であり、徴収面の第二次納税義務に係る告知処分とは全く別の処分であって、国税通則法第102条(裁決の拘束力)第1項の規定には抵触しないから、本件金員を賦課決定の審査請求では役員賞与と認定し、第二次納税義務に係る告知処分では贈与と認定しても違法ではない。
平成7年11月17日裁決
滞納法人がその構成員である組合員に対して行った賦課金の返還行為が、国税徴収法第39条の無償譲渡等に当たるとされた事例
国税徴収法第39条の無償譲渡とは、民法上の贈与等を指すものと解され、課税庁が利益の配当として法人及びその株主等に対し課税した場合であっても、それが法人のその株主等に対する会社資産の無償譲渡に当たる場合には、同一の資産の譲渡が、一方では国税徴収法第39条の無償譲渡に該当し、他方では利益の配当として課税所得の計算の対象に該当することになんら矛盾はないというべきである。
また、請求人が主張する法人税等は、当該財産の取得による所得のみならず、その年中に生じた他の所得及び損失等との関連において課税標準及び税額が異動するものであって、受益の時においてはその納税義務の存否及び数額を法律上客観的に確定することができないものであるから、受けた利益の現存する限度額の算定に当たり控除すべき費用等には該当しない。
平成11年4月23日裁決
連帯納付義務者Lから不動産の贈与を受けた者に対して行われた国税徴収法第39条の規定に基づく第二次納税義務の告知処分が適法であるとした事例
- 相続税法第34条の連帯納付義務については補充性がないことから、連帯納付義務は、第二次納税義務のように本来の納税義務者に対する滞納処分を執行しても徴収すべき額に不足すると認められる場合に限って、納税義務を負担するものではない。すなわち、本来の納税義務者に対する徴収手続と連帯納付義務者に対する徴収手続は本来的には別個の手続である。
そうすると、仮に、税務署長が、本来の納税義務者に対する滞納処分等の徴収手続を適正に行っておれば、本来の納税義務者から滞納に係る相続税を徴収することが可能であったにもかかわらず、税務署長が徴収手続を怠った結果、本来の納税義務者から相続税を徴収することができなくなったという事実があったとしても、その事実は、相続税法第34条第1項の規定によって、各相続人に課されている連帯納付義務の存否又はその範囲に影響を及ぼすものではなく、また、税務署長が、各相続人に対して、連帯納付義務の履行を求めて徴収手続を進めたとしても、これをもって違法ということはできない。 - 請求人らは、国税の徴収について、民法第504条の規定を準用又は類推適用すべきであると主張するが、相続税法、国税通則法、国税徴収法のいずれにおいても、民法第504条を準用すべきものであるとする規定もなく、類推適用を根拠付ける規定もない。
- 相続税の連帯納付義務の性格については、その性格を民法上の連帯保証債務に類似するものと解し、本来の納税義務についての時効中断の効力は附従性により連帯納付義務にも及ぶと解するのが相当である。これを本件について見ると、本来の納税義務者Kの国税の徴収権の消滅時効はいまだ完成していないから、連帯納付義務者Lの国税の徴収権の消滅時効も完成しておらず、請求人らの主張には理由がない。
- Kは、Lの連帯納付義務を承継した納税義務者でもあり、連帯納付義務と本来の納付義務が同一人に帰することになる。しかしながら、本来の納付義務と重複することとなった連帯納付義務が当然に消滅すると解すべき実定法上の根拠はない。また、本来の納付義務と連帯納付義務が同一人に帰した場合に、連帯納付義務が消滅する場合があり得るとしても、Lの連帯納付義務は、第二次納税義務の基因となる納付義務であり、Lの連帯納付義務を存続させる実益があることからすると、当該連帯納付義務が消滅すると解するのは相当ではない。
- 国税徴収法第39条の徴収不足が無償譲渡等の処分に「基因する」とは、広く、その処分がなかったならば、徴収不足を生じなかったであろうことをいい、損害賠償請求の場合における「直接の因果関係」よりも広い概念として、当該基因関係を認めるのが相当と解され、また、徴収不足の判定は、第二次納税義務の告知処分をするときの現況によるべきものと解される。
これを本件について見ると、本件贈与がなければ、本件贈与により受けた利益の金額の総額を承継後の滞納国税に充てることが可能であったといえる。そうすると、本件贈与と徴収不足との間に基因関係を認めることができるから、請求人のこの点に関する主張は採用できない。 - 本件納付通知書の納税者欄には、第二次納税義務の基因となった納付義務を負う者の氏名が記載されるところ、Lは既に死亡しており、Lの連帯納付義務はKに承継されていることから、納付通知書の納税者欄にKの氏名を記載したことは、国税徴収法第32条第1項に照らして適法であり、無効とする重大な瑕疵があるとはいえない。
- 国税徴収法第39条の規定は、主たる納税者の租税の納期限が経過したこと及び滞納処分を執行しても徴収不足を生じると認められることを第二次納税義務の要件としているものの、主たる納税者に対して実際に徴収手続に着手することを要件とするものではないと解される。
したがって、第二次納税義務の基因となった連帯納付義務について、国税徴収法第39条に規定する要件を満たせば、督促の有無にかかわらず、第二次納税義務者である請求人らに対して、本件告知処分を行うことができることとなる。 - 登記は、制度上その手続において、真正な、すなわち有効に存立する実質的な関係に基づくものであることが前提とされ、かつ、公の機関によって管理されているから、登記上の所有名義人は反証がない限り当該不動産の所有者と推定することが相当である。本件居宅は、[1]相続により贈与者へ所有権移転登記がされていること、[2]請求人らへ贈与により所有権移転登記がされていることから、被相続人から相続した上で、請求人らに贈与したと認めるのが相当である。
これに対して、請求人は、自らが本件居宅を建築したと主張するが、遺産分割協議書及び本件相続に係る相続税の申告書において、本件居宅は妻が相続する旨の記載があること、請求人らは、本件贈与について贈与税の申告をしていること、並びに請求人が建築したとする請負契約書や新築及び改築費用の資金出所を明らかにする領収書等の証拠書類を提出しないことからすると、本件居宅が請求人に帰属すると認めることはできない。
平成15年4月16日裁決
請求人が受領した滞納会社の売掛金のうち、滞納会社の従業員に対する給与に充てられた部分以外の部分は、国税徴収法第39条の無償譲渡等の処分によるものであるとした事例
請求人と滞納会社との間では、滞納会社の取引先との取引の継続を目的として、請求人に滞納会社の工場と従業員を引き継ぎ、当該取引先との取引を継続することについての合意が成立したものと認められるが、本件売掛債権が発生する前にその旨の合意が成立したと認めることはできないから、本件売掛債権はもともと滞納会社に帰属していたと認めるのが相当であり、また、請求人は、滞納会社が負っていた従業員に対する給与の支払債務の弁済資金を確保するために本件売掛債権を譲り受けたものと認められるから、当該給与支払債務相当額部分については、国税徴収法第39条の無償譲渡等の処分により請求人が利益を受けたということはできないものの、その余の部分については、請求人が滞納会社に返還した形跡を認めることができず、滞納会社も請求人に請求した事実が認められないことからすれば、同条の無償譲渡等の処分により請求人が利益を受けたものと認めるのが相当である。
平成20年6月30日裁決
貸金業を営む請求人の貸金債権についての保証業務を行っていた滞納法人が業務を廃止したことに伴い、請求人が滞納法人から収受したといえる業務廃止日現在の累計保証料相当額から貸倒額を控除した部分は、国税徴収法第39条の無償譲渡等の処分によるものであるとした事例
請求人の顧客の請求人に対する債務について保証する本件滞納法人がその業務を廃止した場合に、その廃止日における累計保証料相当額を請求人がすべて収受する旨を定めた本件契約第9条の規定は、本件滞納法人が業務を廃止したときは、本件滞納法人による保証債務が履行されないこととなり、請求人に損失が生じることとなる一方、本件滞納法人としては、保証していた請求人の貸金債権の履行期限が到来するまで業務を廃止できないとすると、円滑に業務廃止の手続を進めることができなくなることから、本件滞納法人の業務廃止後における損害賠償債務又は保証債務の履行に代えて、本件滞納法人が累計保証料相当額の金員を請求人に交付することとし、その後の清算を要しないこととしたものと解され、本件累計保証料相当額の債務の履行により、本件滞納法人の業務廃止後における損害賠償債務又は保証債務が消滅するので、本件累計保証料相当額の債務が履行されたことによって、直ちに国税徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分があったということはできない。
しかしながら、同条にいう無償譲渡等の処分が広く第三者に利益を与える行為をいうものと解されることからすれば、本件滞納法人の業務廃止後における損害賠償債務又は保証債務の履行に代えて、本件滞納法人が請求人に対して支払うべきものとして必要な範囲を超えて履行された部分は、同条の無償譲渡等の処分によるものと解するのが相当であり、その必要な範囲は、本件滞納法人の業務廃止時における請求人の貸金残高に予想される貸倒率を乗じて算出される額とするのが相当である。もっとも、本件滞納法人の業務廃止に伴って請求人に生じた貸倒れの額が具体的に明らかである場合には、その額までの部分がその必要な範囲と認めることが相当であるから、本件滞納法人が請求人に対して負っていた本件累計保証料相当額の支払債務と請求人の本件滞納法人に対する借入金債務との相殺によって、請求人が本件滞納法人から債務の履行を受けたと同視できる額から本件滞納法人の業務廃止によって生じた請求人の貸金債権についての貸倒損失の額を控除した部分については、請求人が本件滞納法人から国税徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分により利益を受けたというべきである。
平成20年10月27日裁決
滞納者を契約者兼被保険者とし、保険金受取人を請求人とする生命保険契約に基づいて死亡保険金を受領した請求人は、国税徴収法第39条の規定により、滞納者が払込みをした保険料相当額の第二次納税義務を負うとした事例
保険契約者が保険金の受取人を第三者とするいわゆる他人のための生命保険契約に基づく保険料の払込みは、保険会社に対して生命保険契約に基づく義務を履行するものではあるが、保険事故が発生したときに当該第三者に利益を与える目的を達成するために、自己の積極財産を減少させる行為であるから、保険金受取人は、保険事故が発生した場合、保険契約者の行った保険料の払込みという積極財産を減少させる行為によって、無償で保険金支払請求権を取得し、利益を受けたということができる。
そして、保険金の支払請求権は、保険事故の発生により、保険金受取人が原始取得するものであり、保険金は滞納者である保険契約者からではなく保険会社から支払われるものであるから、滞納者である保険契約者が保険金受取人に対して直接財産処分行為をしたとはいえないが、国税徴収法第39条の条文からすれば、滞納者の財産処分行為と保険金受取人の受けた利益との間に基因関係が認められれば足り、滞納者が保険金受取人に対して直接財産処分行為を行っていることまで要するものではないと解するのが相当である。
もっとも、国税徴収法第39条が、国税債権の確保のための詐害行為取消権の行使による逸出財産の取戻しを行うのと同様の効果を得ようとするものであること、同条にいう「無償譲渡等の処分」が、第三者に異常な利益を与える積極財産の減少行為をいうものと解され、本件のような被保険者が死亡した場合にその遺族に保険金が支払われる生命保険契約が、被保険者の死亡後における遺族の生活を保障するために締結されるものであり、保険料の払込みが当該契約に基づく債務の履行にすぎないことからすれば、保険契約者の職業や地位、資力、遺族の人数・年齢、国税の納付・徴収と保険料の払込みとの関係等を総合的に考慮して、当該保険料の払込みと保険事故発生後の保険金の支払が保険金受取人に異常な利益を与えるものであるといえない限り、保険料の払込みが国税徴収法第39条の「無償譲渡等の処分」に当たらないと解するのが相当である。
これを本件についてみると、本件滞納者は、滞納国税のほか多額の債務を抱えていた状況の下で、本件各滞納国税のうち法定納期限が最も古い国税の法定納期限の1年前の日以後本件滞納者が死亡するまでの納付回数は6回にとどまる一方、国税の月平均納付額の倍以上の保険料を毎月継続的に払い込んだこと、請求人が受領した死亡保険金の総額が極めて多額であって、遺族が請求人と成人していた子であることからすれば、本件滞納者が請求人とともに事業を営み、相当の収入を得ていたこと、また、一般的には遺族を受取人とする生命保険契約が、被保険者の死亡後における遺族の生活を保障するために締結されるものであり、本件においても、本件滞納者の死亡後における請求人と子の生活を保障するものとして締結されたものであると考えられることを考慮しても、本件各生命保険契約に基づいて本件滞納者がした保険料の払込みは、請求人に異常な利益を与えるための積極財産の減少行為として、国税徴収法第39条の無償譲渡等の処分に当たるといわざるを得ない。
そうすると、請求人は、本件滞納者が本件各生命保険契約に基づいてした保険料の払込みという無償譲渡等の処分により、本件滞納者の積極財産の減少額である払込保険料と同額の利益を受けたものと認められる。
《参照条文等》
国税徴収法第39条
平成22年3月9日裁決
滞納者が受け取るべき信託受益権の譲渡代金の残余金等のうち、滞納者の債務を弁済した後に生じた余剰金は、実質的に滞納者から請求人に対する無償譲渡と認められるとした事例
《ポイント》
この事例は、滞納者と滞納者が主宰する法人が共有していた財産の譲渡代金が当該法人の預金口座に振り込まれた後、その一部が滞納者名義の預金口座、請求人名義の預金口座、請求人の妻名義の預金口座を経由して請求人の定期預金等の財産となったところ、滞納者は上記譲渡代金から自己及び上記法人の債務を弁済して余剰が出た場合には、請求人に贈与する意思を有し、当該余剰の交付や返還を求めていないから、実質的に滞納者の財産が無償譲渡されたと認定したものであり、また、その額が原処分の限度を超えるから、原処分は適法であるとしたものである。
《要旨》
請求人は、本件滞納者と本件滞納者が代表取締役を務めていた本件法人の双方から、両者が共有していた不動産の信託受益権の譲渡代金の残余金等(本件残余金等)の管理処分を任され、本件残余金等が振り込まれた本件法人の預金口座をはじめ、本件滞納者、請求人及び請求人の妻名義の預金口座のすべてを請求人の管理下に置いて入出金を行っていた。また、本件滞納者は、上記譲渡代金によって、自己及び本件法人の債務を弁済して余剰が出た場合には、請求人に贈与する意思を有し、請求人に対し、当該余剰の交付や返還を求めていないところ、本件残余金等のうち本件滞納者が取得すべき額の金員が、本件法人の取得すべき額の金員とともに本件法人の預金口座に振り込まれ、その後、その一部が、請求人の管理下にあった本件滞納者名義の預金口座、請求人名義の預金口座及び請求人の妻名義の口座に振り替えられ、さらに、請求人名義の定期預金等として請求人の管理下に移転したと認められる。
このような一連の事実経過をみると、実質的に、本件滞納者の財産が請求人に対して無償譲渡されたと認められ、その額は原処分の限度を超えるから、原処分は適法である。
《参照条文等》
国税徴収法第39条
財団法人に対する寄附は、国税徴収法第39条に規定する無償譲渡等に当たるとした事例
《要旨》
請求人は、財団法人に対する寄附については、国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する無償譲渡等の処分に該当しない旨主張する。
しかしながら、国税徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分は、国及び法人税法第2条《定義》第5号に規定する公共法人以外のものに対する処分に限られるところ、請求人は、国及び同号に規定する公共法人のいずれにも該当しない財団法人であることから、請求人に対する寄附は、国税徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当する。
《参照条文等》
法人税法第2条第5号
国税徴収法第39条
国税徴収法施行令第14条
《参考判決・裁決》
東京高裁昭和57年10月18日判決(行集33巻10号2065頁)
離婚に伴う財産分与が不相当に過大であるとして国税徴収法第39条に規定する「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」があったとした事例
《要旨》
請求人は、離婚に伴い滞納者である夫から財産分与(本件財産分与)として不動産(本件分与財産)を譲り受けたが、本件財産分与は不相当に過大ではないから、国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二納税義務》が規定する「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当しない旨主張する。
しかしながら、離婚における財産分与が同条の「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」等の処分に当たるか否かは、夫婦間における諸事情を考慮して清算的要素、扶養的要素及び慰謝料的要素を算定した上で当該財産分与が不相当に過大か否かを判断するのが相当であるところ、本件分与財産の価額は、財産分与相当額の8倍以上であるから、本件財産分与は、国税徴収法第39条が規定する「無償又は著しく低い額の対価による譲渡」に該当する。
《参照条文等》
民法第768条
国税徴収法第39条
《参考判決・裁決》
最高裁昭和58年12月19日第二小法廷判決(民集37巻10号1532頁)
最高裁昭和62年10月30日第三小法廷判決(集民152号93頁)
役員退職給与の不相当に高額な部分が国税徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当するとした事例(第二次納税義務の納付告知処分・棄却)
《ポイント》
本事例は、滞納会社が請求人に役員退職慰労金として支給した金額は、請求人の当該会社における役員としての職務執行及び功労との対価的均衡を著しく欠くものであり、その支給は、国税徴収法第39条に規定する無償譲渡等の処分に該当するとしたものである。
《要旨》
請求人は、原処分庁がした第二次納税義務の納付告知処分について、過去に、滞納会社(本件滞納会社)から役員退職慰労金として支給を受けた不動産(本件不動産)を本件滞納会社に売却したことにする売買契約(本件売買契約)をしたのは、帳簿上、本件滞納会社の使途不明金を請求人に対する役員貸付金に振り替えた残高を消し込むためであり、本件不動産の所有権は請求人が有したままであったから、本件不動産は、退職慰労金として請求人に譲渡された財産ではない旨、また、
滞納会社が請求人に本件不動産や生命保険契約(本件保険契約)の契約上の地位等を役員退職慰労金として支給したこと(本件支給)は、請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額の範囲内であり、国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する無償譲渡等の処分には該当しない旨主張する。
しかしながら、上記の役員貸付金及びこれと相殺された本件売買契約に基づく売買代金には、いずれも実体があったというべきであることや、本件滞納会社が本件売買契約に沿って、本件不動産の所有権を取得した買主として振る舞っていたことなどからすれば、本件売買契約は、実体のない仮装売買であったとはいえない。
また、国税徴収法第39条の無償譲渡等の処分に該当するかどうかは、平均功績倍率法によって求めた相当とされる役員退職給与の金額と実際に支給された役員退職給与の金額の乖離の程度に加えて、当該役員の職務又は功労の内容、程度、勤務年数のほか当該役員退職給与が支給されるに至った具体的事情等をも考慮した上で判断するのが相当であるところ、本件支給の額は、平均功績倍率法により求められる請求人の役員退職慰労金として相当と認められる金額の7倍を超え、その乖離の程度が大きいことに加え、請求人の主な業務は社員教育であり、本件滞納会社の経営を担っていたとはいえないことや本件支給の決議当時の状況等に鑑みれば、本件支給がされたのは、本件滞納会社が滞納国税の徴収などを回避するためであり、本件支給の額は、本件不動産及び本件保険契約を請求人に得させるために設定されたもので、請求人の職務及び功労と役員退職慰労金の金額との対価的均衡を考慮した上で決定されたものではなかったと認められるから、本件支給は、同条に規定する無償譲渡等の処分に該当する。
《参照条文等》
国税徴収法第39条
《参考判決・裁決》
東京地裁平成9年8月8日判決(判タ977号111頁)
東京地裁令和2年3月24日判決(税資270号13403頁)
滞納者から請求人に対する振込みによる送金は、国税徴収法第39条に規定する無償による譲渡に該当するとした事例(第二次納税義務の納付告知処分・棄却)
《ポイント》
本事例は、生活費及び学資の前払としての送金が、社会通念上相当と認められる範囲の金銭の交付とは認められないとしたものである。
《要旨》
請求人は、滞納者(本件亡滞納者)が、生前に請求人に対し行った請求人名義口座への振込みによる金銭の交付(本件金銭交付)は、別居していた請求人に対する将来の生活費及び医学部に進学する子のための学資等である婚姻費用の前払であり、社会通念上相当と認められる範囲の金銭の交付であるから、国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》に規定する無償による譲渡に該当しない旨主張する。
しかしながら、本件亡滞納者は、請求人に対し、本件金銭交付に先立ち、相当程度に高額な金銭を送金し、本件金銭交付後も生活費として毎月一定額の送金を継続していること、本件金銭交付に係る金員が、将来的には、子の学資等の原資となるとしても、本件金銭交付の時点においては、学資等として具体的な支払の予定があったとはいえないことからすると、請求人親子と本件亡滞納者が別居し、請求人に収入がなかったために、本件亡滞納者において婚姻費用あるいは生活費及び学資等を負担する必要があったとしても、その前払として本件金銭交付をすべき必要があったとは認められない。したがって、本件金銭交付は、生活費及び学費等に充てるためにした社会通念上相当と認められる範囲の金銭交付に該当せず、無償による譲渡に該当する。
また、請求人は、本件亡滞納者の各滞納国税(本件各滞納国税)に係る第二次納税義務の納付告知処分(本件納付告知処分)について、本件亡滞納者が、株式の売却代金や相当程度の給与収入を得ていたことからすると、原処分庁が遅滞なく滞納処分を行っていれば、徴収不足を生じることはなかったにもかかわらず、原処分庁が換価の猶予を行って本件亡滞納者の財産の散逸を見過ごしたために徴収不足となったのであるから、本件各滞納国税の徴収不足は、本件金銭交付に基因しない旨主張する。
しかしながら、徴収不足が認められる場合とは、第二次納税義務に係る納付告知処分時の現況において、本来の納税義務者の財産で滞納処分により徴収することのできるものの価額が、同人の滞納国税の総額に満たないと客観的に認められる場合をいうものと解され、さらに、徴収不足が無償譲渡等の処分に基因すると認められるときとは、当該無償譲渡等の処分がなかったならば当該納付告知処分時現在の徴収不足を生じなかったであろうということができる場合をいうものと解するのが相当であるところ、本件各滞納国税の納付義務を承継した相続財産法人は、本件納付告知処分時において徴収不足であると認められ、本件金銭交付に係る金額は、本件各滞納国税の金額を上回ることからすると、本件金銭交付がなかったならば本件納付告知処分時の徴収不足を生じなかったであろうということができるから、本件各滞納国税の徴収不足は本件金銭交付に基因すると認められる。
《参照条文等》
国税徴収法第39条
《参考判決・裁決》
東京地裁昭和45年11月30日判決(行集21巻11・12号1392頁)
東京高裁昭和52年4月20日判決(訟月23巻6号1117頁)