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職務発明報償和解金
職務発明・考案に係る権利の譲渡の対価として支払われた和解金については、職務発明に関する「相当の対価」の追加分として受け取ったものと認められることなどから、譲渡所得に該当せず、雑所得に該当するとした事例
請求人は、職務発明の対価支払請求訴訟における和解により得た和解金は和解調書の記載のとおり、請求人が和解当日までにF社でした職務発明・考案に係る権利を同社に譲渡した対価として受領したものであり、このような権利の譲渡により得た所得は譲渡所得に該当する旨主張する。
しかしながら、請求人は本件職務発明につき「特許を受ける権利」をF社に承継し、出願報償金を受け取ったこと、請求人が同社を被告として提起した相当の対価の支払請求訴訟は同社から受領した本件職務発明についてのロイヤリティ報償金及びクロスライセンス報償金が特許の実施開始以後に同社が得たロイヤリティ収入及びクロスライセンス収入のうち本件職務発明に関して請求人が得るべき「相当の対価」の額に満たないとしたものであり、その和解が成立し本件和解金が支払われたことが認められることなどから、本件和解金は、本件職務発明に関する「特許を受ける権利」の譲渡後に、同社がこの権利を独占的に利用するなどして得た利益の実績等を前提にして、両者が合意の上で定めた金額による本件職務発明に関する「相当の対価」の追加分相当の金員であると認めるのが相当である。
また、F社がこの権利を独占的に利用するなどして得た利益の実績等に基づいて算定された使用料と同様のものであるから、本件和解金に係る所得は、雑所得となる。
平成21年4月23日裁決
職務発明に係る特許を受ける権利を勤務先に承継させた者の相続人が、特許を受ける権利の対価に係る訴訟上の和解により取得した金員は、その相続人の雑所得に該当するとした事例
請求人は、E社との和解によって受領した金員は、請求人の死亡した子Dがした職務発明による特許を受ける権利のE社への承継に際し一時に受けるべき対価の修正追加支払額であることから、Dに帰属し、Dの当該権利の承継が行われた年分の譲渡所得であるので請求人には課税されない旨、及び、請求人に所得税が課税されるとしても、発明者の相続人である請求人にとっては対価性がなく、訴訟により請求人が獲得したもので継続性がないから、当該金員は一時所得に該当する旨主張する。
しかしながら、当該職務発明に係る対価請求権のうち、特許を受ける権利を使用者等に承継した後に支払われる不足額部分については、承継時には、対価の額は未実現(未確定)であるため、直ちにその全部について権利行使(権利の実現)することは困難であり、このような段階では、当該対価請求権は法的には発生していても、いまだ権利実現の可能性を客観的に認識することができるとはいえず、当該金員は、和解成立時に収入の原因となる権利が確定したと認められるから、請求人の平成19年分の所得とみるのが相当である。
また、対価性とは、専ら、当該給付が役務行為又は資産と対価性があるか否かによって定められるべきであり、当該役務行為又は資産の譲渡の主体が相続人たる請求人であるか被相続人であるかはその判断に影響を与えるものではない。
そうすると当該金員は、特許法第35条第3項の相当の対価の不足額を求めた訴訟により金額が確定した金員であり、特許を受ける権利を使用者に承継したことに伴い、使用者が当該権利を独占的に利用する権利を取得し、その金額は承継後に使用者が獲得した利益の実績に基づいて算定されるべきものであり、その実質は使用者に承継した特許を受ける権利の対価であることに疑いはないから、対価性があると認められ、これを一時所得と解することは相当でない。
したがって、当該金員は、利子所得ないし一時所得のいずれにも該当しない所得であるから、雑所得に該当する。
平成21年10月9日裁決
請求人が裁判上の和解により取得した職務発明に係る和解金は、譲渡所得ではなく、雑所得に該当するとした事例
《ポイント》
この事例は、職務発明をした従業員等が使用者等に特許を受ける権利等を承継させたときに保障される「相当の対価の支払を受ける権利」(特許法第35条第3項)に基づき、裁判上の和解により支払われた和解金の所得区分につき、請求人が、当該和解金のうち外国特許に係る部分は譲渡所得に該当すると主張したのに対し、特許を受ける権利が通常同一の職務発明から生じるものであることを説示した最高裁平成18年10月17日第三小法廷判決を参考に、この事例における社内規定の内容から、当該和解金の全部が譲渡所得には当たらない旨判断したものである。
《要旨》
請求人は、国内特許と外国特許とに係る相当の対価の支払を請求する権利は、それぞれ別個の請求権であって、F社から外国特許に係る承継の対価は一切受け取っておらず、F社に対し、在職中の職務発明について特許を受ける権利をF社に承継させたことにつき、特許法第35条《職務発明》第3項の規定に基づき、相当の対価の支払を求めて提起した訴訟において成立した訴訟上の本件和解によって得た本件和解金によって当該外国特許に係る承継の対価を初めて受け取ったのであるから、少なくともその部分に関しては譲渡所得に該当する旨主張する。
しかしながら、我が国又は外国の特許を受ける権利の基となる職務発明は、共通する一つの技術的創作活動の成果であり、当該職務発明については、その基となる雇用関係等も同一であって、これに係る国内外の特許を受ける権利は、社会的事実としては、実質的に1個と評価される同一の職務発明から生じたものということができ、そして、F社の発明考案取扱規定(本件規定)は、F社が日本国及び外国での職務発明に係る特許等を受ける権利等を承継する旨定めており、その趣旨は、国内外の特許を受ける権利の上記のような性格等に鑑み、当該権利の基となる職務発明をした従業者等とF社との間の当該発明に関する法律関係を一元的に処理しようとしたものであるということができる。このことに加えて、本件規定において、出願数は国内出願の件数により認定し、複数の出願に基づく国内優先権出願及び外国出願は全てこれを一つの出願とみなす旨規定していることを併せ考えると、本件規定が定める出願補償金、登録補償金及び実績報償金は、いずれも、国内における特許を受ける権利と外国における特許を受ける権利のいかんを問わず、本件規定の定める一つの出願に対するものとして規定されているものと解するのが相当である。そうすると、F社から請求人に対して支払われた出願補償金及び登録補償金は、職務発明に係る国外の特許を受ける権利の承継の対価を含むものというべきであるから、本件和解金に係る所得は譲渡所得には当たらない。
《参照条文等》
所得税法第33条、第35条
所得税基本通達23〜35共−1
《参考判決・裁決》
最高裁平成18年10月17日第三小法廷判決(民集60巻8号2853頁)
東京(知財)高裁平成21年2月26日判決(判時2053号74頁・判タ1315号198頁)
平成21年4月23日裁決(裁決事例集77号72頁)
平成21年10月9日裁決(裁決事例集78号172頁)