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株式関連報酬
自己が勤務する法人の親会社から付与されたストック・オプションに係る経済的利益は、請求人の非独立的ないし従属的な人的役務の提供の対価としての性質を有するから給与所得に該当するとした事例
請求人は、自己が勤務しているK社の親会社であるG国法人H社から付与されたストック・オプションに係る経済的利益は、H社と雇用関係にないこと等から、一時所得に該当する旨主張する。
しかしながら、本件ストック・オプションは、H社のストック・オプションプランに基づき、請求人へストック・オプション付与契約書により付与されているところ、本件プラン及び本件付与契約書に記載された各規定のとおり、本件プランの目的として、人材の確保と当該人材に対する追加的インセンティブの供与が掲げられていること、本件ストック・オプションは、請求人が本件従業員等(H社及びH社の子会社の役員及び従業員をいう。)であることを前提に、対価として付与されたものであること、その行使は、請求人の本件従業員等としての一定期間の勤務をもって可能となること、その譲渡等は原則として禁止されていることが認められる。
これらのことからすると、本件利益は、請求人が本件従業員等たる地位に基づき、H社の株式を購入することができる権利を同社から付与され、本件従業員等として一定期間勤務することにより、これを行使して得たものであるということができる。換言すれば、本件利益は、請求人が、専らK社に勤務することに基づいて得られた経済的利益、すなわち、請求人の非独立的ないし従属的な人的役務の提供の対価としての性質をもった所得ということができるから、給与所得に該当すると解するのが相当である。
平成13年12月25日裁決
親会社から付与されたファントム・ストック・アプリシエイション・ライトに係る経済的利益は、給与所得に該当するとした事例
請求人は、自己が勤務している内国法人の親会社である外国法人から付与されたファントム・ストック・アプリシエイション・ライト(現実に株式の支給をしないが、付与時の時価を基に定められた当初価格と権利行使時の株価の差額を現金で受け取る権利)の行使に係る経済的利益は、同社と雇用関係がないこと等から、一時所得に該当する旨主張する。
しかしながら、当該経済的利益は、当該内国法人の役員たる地位に基づき、当該外国法人からファントム・ストック・アプリシエイション・ライトを付与され、当該内国法人に勤務する期間において、これを行使して得た利益、すなわち、請求人の非独立的ないし従属的な人的役務の提供の対価としての性質をもった所得であるから、給与所得に該当する。したがって、請求人の主張は採用できない。
平成15年2月28日裁決
請求人の勤務する会社が属するグループを支配する外国法人から、請求人に無償で同法人の株式を取得できる権利が付与されたことに基づいて生じる経済的利益は、当該権利が確定する諮問委員会の決定日が収入すべき日であり、雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な人的役務の提供の対価として給付されたものとして、給与所得に該当するとした事例
(1) 請求人は、請求人の勤務する会社(内国法人)が属するグループを支配する法人であるH社(外国法人)から、同グループの従業員持株制度に基づき、請求人に無償でH社の株式を取得することができる権利(以下「本件アワード」という。)を付与されたことに基づいて生じる経済的利益(以下「本件経済的利益」という。)は、請求人が株式の売却申請を行った日に実現するから、当該売却申請を行った日が収入金額とすべき時期である旨主張する。
しかしながら、本件アワードは、請求人の年間給与金額などに応じてH社から請求人に無償で付与され、条件が満たされると、グループの従業員持株制度の実施と管理を行う諮問委員会が決定する日(以下「本件決定日」という。)に権利確定するとしており、同日以後においては、請求人は受益所有権を有するH社の株式(以下「本件株式」という。)をいつでも売却することができ、本件アワード付与の基準日である適格日から本件決定日までに係る配当が支払われ、本件決定日以後の配当を受ける権利及び本件株式に係る議決権を行使できる権利も請求人に移転することが認められることから、本件経済的利益は、本件決定日に権利が具体的に確定したと認めるのが相当である。
そして、請求人が本件決定日に得たものは、本件株式の同日における時価相当額の経済的利益(以下「本件権利確定益」という。)と認めるのが相当である。
なお、請求人が行った本件株式の売却申請は、本件決定日以後に請求人が有することとなった本件株式に関する各種の権利のうち、本件株式を処分できる権利について、請求人が自らの投資判断に基づき、これを行使すべく手続をしたものにすぎないから、請求人の主張は採用できない。
(2) 請求人は、H社との間に直接雇用又は委任の契約関係はなく、また、本件経済的利益の発生原因は株価の上昇によるものであり、請求人の精勤とH社の株価の上昇とは直接関係せず、偶発性を有することから、一時所得に該当する旨主張する。
しかしながら、本件アワードは請求人がH社傘下のS社ないしはT社(以下「勤務会社」という。)の従業員等であることを理由に付与されたものであること、
本件アワードの権利確定は勤務会社の従業員等として一定期間の勤務をしたことによって可能となること、
本件アワードは請求人に対し付与されたものであり、他人に譲渡することは禁止されていることからすれば、請求人は、勤務会社の従業員等たる地位に基づき本件株式を取得することができる権利を付与され、勤務会社の従業員等として一定期間勤務することにより本件権利確定益を得たものと認められるから、本件権利確定益は、請求人が専ら勤務会社に勤務することに基づいて得られる経済的利益であり、請求人の非独立的ないし従属的な人的役務の提供の対価としての性質をもった所得と認められる。さらに、本件権利確定益は、勤務会社からではなくH社から与えられたものであるものの、本件アワードは、グループ各社の従業員等の意欲を引き出すことなどを企図して設けられており、H社は請求人が勤務会社において勤務しているからこそ、請求人に対して本件アワードを付与したものであって、本件権利確定益は、請求人が職務を遂行したことに対する対価としての性質を有する経済的利益であることは明らかというべきである。
したがって、本件権利確定益は、所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与所得に該当するというべきである。
なお、経済的利益を受けた者と当該経済的利益を給付した者に直接の雇用関係又は委任の契約関係がないことのみをもって給与所得該当性が否定されるものではなく、また、給与所得該当性の判断における人的役務の提供の対価性の問題は、従業員等の地位又は職務に関連してその労務の提供の見返りとして経済的利益を受けたものとされる関係があれば足り、人的役務の提供の質や量と給付との間に数量的な相関関係があることまでを要するものではなく、請求人が得るべきこととなった経済的利益の多寡が人的役務の提供の内容と関係ない要素によって左右されたとしても、本件権利確定益の給与所得該当性を否定する事情とはならないから、請求人の主張は採用できない。
平成18年8月23日裁決
勤務先の株式報酬制度に基づいて支給された上場株式に係る給与所得の収入すべき日は、当該報酬制度による約束(ストック・ユニット)が株式にコンバートされた日であるとした事例
《要旨》
請求人は、勤務先が属するE社グループの株式報酬制度に基づいて支給されたE社の上場株式(E社株式)に係る給与所得の収入金額の収入すべき日は、E社グループの従業員等の金融取引に関する取引方針(従業員等取引方針)の定め(所定の期間以外はE社グループ各社の発行した株式の譲渡を制限する旨)によりE社株式の譲渡が制限されていたから、E社株式が請求人の証券等取引口座に振り替えられ、かつ、当該譲渡制限が解除され譲渡が可能となった日(従業員等取引方針により譲渡できる期間の初日)である旨主張する。
しかしながら、当該株式報酬制度の内容等を総合すると、請求人は、同制度による約束(ストック・ユニット:将来の指定された日(コンバート日)に、ストック・ユニット1単位に対してE社の普通株式1株を支給する旨の無保証の約束)が株式にコンバートした日において、E社株式の支給を受けて、当該株式に係る株主としての地位を確定的に取得したものと認められるから、同日をもって、当該支給に係るE社株式に係る給与所得の収入すべき日とするのが相当である。また、従業員等取引方針は、従業員の不正行為等の防止を目的として、E社グループの全ての従業員等による証券等の各種取引を規制対象とするものであり、当該株式報酬制度とはその目的や対象等を異にする別の制度であることからすると、請求人に支給されたE社株式は、請求人の立場により自由に譲渡できる期間を限定されているとはいえ、市場に流通するE社株式と同じ経済的価値(客観的交換価値)を有するものであるから、請求人が、上記コンバート日において既に、上記のような価値のあるE社株式の支給を受けて、当該株式に係る株主としての地位を取得している以上、同日に当該株式に係る所得が実現したというべきである。
《参照条文等》
所得税法第36条第1項
《参考判決・裁決》
最高裁昭和53年2月24日第二小法廷判決(民集32巻1号43頁)
東京地裁平成17年12月16日判決(訟月53巻3号871頁)
大阪高裁平成20年12月19日判決(訟月56巻1号1頁)