所得税法の特例

長期譲渡所得と短期譲渡所得

  1. 不動産所得及び事業所得等の特例
  2. 譲渡所得の特例
    1. 長期譲渡所得と短期譲渡所得(5件)
    2. 長期譲渡所得に係る課税の特例
    3. 短期譲渡所得の課税の特例
    4. 収用等の場合の譲渡所得の特別控除等
    5. 特定事業の用地買収等の場合の譲渡所得の特別控除
    6. 居住用財産の譲渡所得の特別控除
    7. 居住用財産の買換えの場合の課税の特例
    8. 特定の事業用資産の買換えの場合等の課税の特例
    9. 既成市街地等内にある土地等の中高層耐火共同住宅の建設のための買換え及び交換の場合の譲渡所得の課税の特例
    10. 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例
    11. その他
  3. 株式等に係る譲渡所得等の特例
  4. 住宅借入金(取得)等特別控除
  5. 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
  6. 先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除
  7. タックスヘイブン対策税制
  8. 寄附金特別控除

昭和62年に譲渡したマンションの取得時期は、建物利用権を取得した昭和45年ではなく、その所有権を取得した昭和58年であるから、その譲渡所得の金額の計算に当たって居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例の適用はないとした事例

裁決事例集 No.40 - 265頁

 請求人は、昭和62年2月に譲渡したマンションは昭和45年に1,430万円の金員を支払って取得し、以後居住の用に供していたのであるから、居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例等の適用があると主張するが、請求人とマンションの所有者であった会社との間には昭和45年に「建物利用権設定契約」が締結され、その内容は、[1]請求人は、利用区を自己の持家と同様に居住のために占有使用し、相続その他の包括承継の対象とすることができ、転貸することができること、[2]契約期間は、昭和45年5月1日から昭和60年4月30日までであり、一定の条件のもとに解約でき、契約が終了した場合には保証金(1,430万円)を返還し、請求人は抵当権の設定登記又は代物弁済予約に基づく所有権移転請求権保全の仮登記を付することができること、[3]保証金は無利息であること等が定められており、請求人は、本件マンションについて昭和45年当時、建物利用権と所有権のうちどちらか一方を選択取得できたにもかかわらず、自己の意思で建物利用権を取得したものであって、この建物利用権は、借家権と同一の性格を有しているものと解するほかないから、請求人は昭和45年に建物利用権を取得して以後債権を有していたものであり、昭和58年に至って本件マンションの所有権を取得したものと認められる。そうすると、本件譲渡所得については、譲渡の年1月1日現在において所有期間が10年を超えていないから、居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例等の適用はない。

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租税特別措置法第31条の4で規定する所有期間は、あくまでも譲渡した家屋そのものを取得等した日の翌日から引き続き所有していた期間をもって判断すべきであるとした事例

裁決事例集 No.44 - 315頁

 請求人は、租税特別措置法第31条の4で規定する所有期間の判断に当たっては、譲渡家屋の所有期間のみでなく、実質上は請求人の所有であり白蟻被害のためやむを得ず取り壊した旧家屋の所有期間と通算すべきであると主張するが、旧家屋の所有者は請求人の妻であると認められ、また、同法の所有期間はあくまでも譲渡をした家屋そのものを取得又は建設した日の翌日から引き続き所有した期間をもって判断すべきであることは明らかであり、何らかの事情があって家屋を建替えたとしても、その故をもって、建替前の家屋の所有期間と通算すべき理由はない。

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本件土地の譲渡は、代物弁済により譲渡した後買い戻して売却したもので、短期譲渡であり、代物弁済をした額が取得費の額であるとの請求人の主張に対し、代物弁済の事実は認められず長期譲渡であり、取得費の額は譲渡価額の100分の5であるとした事例

裁決事例集 No.46 - 70頁

 請求人は、本件土地は、昭和59年2月1日に代物弁済により譲渡した後、平成3年12月5日に買い戻して譲渡したものであるから、本件土地の譲渡による所得は短期譲渡所得であり、本件土地の買戻し価額は取得費に該当する旨主張する。
 しかしながら、請求人が融資を受けた会社との間で売買予約の締結か仮登記担保契約かが争いとなり、訴訟提起の上、和解により融資金額の確認と担保権確保のため各種登記が抹消されたという事実が認められ、代物弁済がされた事実はなく、所有権の移転はなされていない。また、請求人が代物弁済により譲渡したと主張する日以後においても本件土地を含む全土地の使用、収益、処分権は請求人に帰属していたと認められる。
 したがって、本件土地について、代物弁済による譲渡及び買戻しの事実があったとは認められないから、本件土地の譲渡による所得は長期譲渡所得であり、本件土地の取得費の額は、租税特別措置法第31条の4の規定により、本件土地の譲渡価額の100分の5に相当する金額となる。

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譲渡資産の所有期間が譲渡の年の1月1日において10年を超えているかどうかについて、譲渡資産の取得時期を引渡しを受けた時期により判定した事例

裁決事例集 No.53 - 220頁

 本件譲渡について、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例を適用するためには、本件譲渡資産の取得時期が昭和55年1月1日以前であることが必要であるところ、[1]本件譲渡者の住民票上における本件譲渡資産の所在地への異動の記載の事実のみをもって当該資産の取得の時期を証明したことにはならず、[2]本件建物の引渡時期及び建築代金の残金の支払状況に照らせば、本件建物の本件譲渡者への引渡しは、早くとも昭和55年2月14日以降になされたものと認められるから、本件譲渡について本件特例を適用することはできない。

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不動産の賃貸事業を目的とする民法上の組合の出資持分及び当該持分に係る組合員たる地位の譲渡による所得について、組合財産のうち現金及び預金に対応する部分を除き、組合財産を構成する土地建物等の譲渡に係る所得として、分離課税の長期譲渡所得に該当するとした事例(平成24年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分・一部取消し・平成28年3月7日裁決)

平成28年3月7日裁決

《ポイント》
 本事例は、任意組合の財産は、任意組合の出資持分及び当該持分に係る組合員たる地位(これらを併せて本件持分という。)と不可分一体のものであるから、本件持分の譲渡は、本件持分が表象する任意組合の財産に対する持分の譲渡という性格を有するものというべきであるとして、本件持分の譲渡に係る所得は、組合財産のうち現金及び預金に対応する部分を除き、組合財産を構成する土地建物等の譲渡に係る所得として、分離課税の長期譲渡所得に該当すると判断したものである。

《要旨》
 請求人は、不動産の賃貸事業を目的とする民法上の組合(本件組合)の出資持分及び当該持分に係る組合員たる地位(これらを併せて本件持分という。)の譲渡による所得については、1その所得の種類及び課税方法(総合課税又は分離課税)が法律上明記されていないこと、2本件持分の価額は、単に不動産等の価値ではなく、「組合員としての地位」たる資産の価値であること及び3本件組合は匿名組合としての性質を有していることから、総合課税の長期譲渡所得に該当する旨主張する。
 しかしながら、本件組合は民法上の任意組合であるところ、民法第668条《組合財産の共有》の規定により、本件組合の財産は、総組合員の共有に属し、本件組合の組合契約の定めなどから、本件組合の各組合員は、本件組合の財産に対し、その出資価額の割合に応じて持分を有する。そうすると、本件組合の財産は、本件組合の出資持分及び組合員たる地位である本件持分と不可分一体のものであるから、本件持分の譲渡は、本件持分が表象する本件組合の財産に対する持分の譲渡という性格を有するものというべきである。そして、本件持分の譲渡の日における本件組合の財産は、土地建物等並びに補修等積立金に係る現金及び預金であったところ、当該土地建物等に対する請求人の持分は、租税特別措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項の規定から、その譲渡による所得は分離長期譲渡所得に当たり、他方、当該現金及び預金に対する請求人の持分については、精算等されていないから、本件持分の譲渡に係る契約に含まれるものの資産価値の増加益を生ずべき資産ではないので、その譲渡の対価は各種所得の金額の計算上、収入金額等に算入することはできない。したがって、本件持分の譲渡に係る所得は、組合財産のうち当該現金及び預金に対応する部分を除き、組合財産を構成する当該土地建物等の譲渡に係る所得として、同条第1項に規定する分離課税の長期譲渡所得に該当する。

《参照条文等》
 民法第668条
 租税特別措置法第31条

《参考判決・裁決》
 岐阜地裁平成20年1月24日判決(税資258号順号10870)

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